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「東京五輪“中止”論争、アスリートにどう影響?」「無観客五輪で一番失われるものは?」“3度出場”為末大に聞く
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byAFLO
posted2021/02/07 11:01
00年シドニー五輪、400mハードルに出場した為末大。04年アテネ、08年北京と3大会に出場した
為末 オリンピックに出てみて実感したのですが、メダルを取れる可能性がある選手というのは相当絞られている。そういう選手が出るか出ないかはとても大きい。モスクワが受けた一番のダメージは、アメリカが出なかったことでメダル候補がごそっと抜けた点にあるんです。
つまりオリンピックというショーは“メダルを取れる可能性のある選手たち”が出れば成立します。例えば、僕が400mハードルに出ようが出まいが、オリンピックの本丸にはあまり関係がない。メダルにぎりぎり絡めるかどうかの機会が1回あったぐらいですから。選手もさすがに力関係が分かるので、序列的に20番台の選手が出られなくなったとしても不公平とは思いません。「ああ、最初からメダル争いには絡めなかったね」と見られるだけです。
もちろん出ることに意義があるという理念はありますが、実際に勝負の舞台に影響を与える選手の数は一握り。あとはどんな手段でその人を選ぶか(※)。アメリカみたいに一発勝負で選ぶのか、中国は“一本釣り”でいいやという感覚かもしれませんね。それを各国が自分たちに合った手段で選ぶんでしょう。
(※IOCによると1月末時点で東京五輪出場枠のうち約4割が未定という)
――緊急事態下だけに各競技の国際連盟やIOCが特例的に推薦するというのもあるかもしれませんね。
為末 そうですね。僕は決勝に出ることを目標にやっていたので、立場としてはワンオブゼムの世界からしかオリンピックが見えていませんでした。そういう人たちは今回のオリンピックではとても辛い思いをするかもしれません。本来であれば資格があった選手が出られなかったり、出場できない国だって出てくるのではないでしょうか。
アスリート目線で「オリンピックと世界選手権は何が違う?」
――アスリートからしたらメダル獲得の可能性が下がろうとも競争力のあるライバル選手に出てほしいと思うものでしょうか。
為末 そうだと思います。オリンピックで得られる最大の報酬は「名誉」ですから。それはトップの選手が出て、その中で勝ったと認識されないと得ることができません。
――各競技の世界選手権も頂点を決める大会だと思いますが、オリンピックとはやはり違うものですか。