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「東京五輪“中止”論争、アスリートにどう影響?」「無観客五輪で一番失われるものは?」“3度出場”為末大に聞く 

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雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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posted2021/02/07 11:01

「東京五輪“中止”論争、アスリートにどう影響?」「無観客五輪で一番失われるものは?」“3度出場”為末大に聞く<Number Web> photograph by AFLO

00年シドニー五輪、400mハードルに出場した為末大。04年アテネ、08年北京と3大会に出場した

為末 本当に難しいです。今回のオリンピックは、そういう部分を競うゲーム、メンタルゲームにもう入っているのだと思います。おそらく通常の大会とは違う順位になるんじゃないでしょうか。いかに周りを無視して準備できるか。自分の世界に入るのが得意な人ほど強かったり、ソーシャルメディアを使っている人ほどパフォーマンスが低いとか。そういう面白いデータが出そうです。

 アスリートのピーキングって、工事の納期みたいにスケジュールをずらせないんです。トランプで作ったタワーみたいな感じで、下がぐらぐらしているのをどうやって崩れないようにするか。数日間、数週間だけ続く完全な形が、あるタイミングでどうしても崩れてしまう。そうしたらまた一から、そのスクラップ&ビルドの繰り返しです。日程がズレると崩すしかないし、批判的な空気にさらされることでもガラガラと崩れてしまう人がいっぱいいるでしょうね。

無観客のオリンピックで“最も失われるもの”

――為末さんは以前に「アスリートは記録に対する挑戦をしながら内なる自分を探検している。競技中に知らない自分に出会う驚きこそがスポーツの本質」と言っていました。「Surprise Yourself」と表現していたそんな瞬間は、無観客のオリンピックでも望めるのでしょうか。

為末 いえ、無観客の場合に最も失われるだろうと思っているのはそこですね。本人も知らないような力が出るのはやっぱり周辺の環境が大きい。無観客の中で我を忘れるほどの体験は起きないだろうなと思っています。

――大観衆こそが未知なる力を呼び覚ますトリガーだと。

為末 それこそが五輪じゃないかと言われたら、そんな気もしてきます。選手は観客の存在に無意識下ですごく影響を受けていますからね。ここぞの場面でリスクを冒しにいくかどうかは、場の雰囲気に左右される部分も大きいはずです。無観客であっても気にはならないけど、パフォーマンスの違いは絶対に出てくる。

――確かに誰も観ていない練習で限界を突破することはあまりないでしょうからね。

為末 人生でこの瞬間しかない状況に居合わせた観客と自分との中で、うわーっと訳が分からなくなってとんでもない力が出る。バリの民族舞踊の「ケチャ」ってあるじゃないですか。ああいう感じに近いでしょうね。自分を空っぽにして、そこにみんなが憑依していく。“奇跡の一瞬”みたいなものは、だいたいが観客と選手との不思議な関係の中で成り立っていたりするんです。

 僕も少し経験があって、海外ではドドドと足踏みで応援したりするので、地鳴りがするんですよ。その中を走っていくと、本当に自分の足を自分で動かしているのか、動かされているのか、よくわからなくなってくる。すごく高揚して、叫んでないんだけど叫んでいるみたいに感じるんです。

 東京オリンピックが開催されたら、世界記録に対してどれだけ迫ったとか、更新したかという記録を過去の大会と比較してみたいです。おそらく違いが出るんじゃないかと思いますよ。

(【続き】東京五輪への厳しい世論は変わるのか? 為末大と考えた「五輪を目指すなとまで言われたら…ちょっと怖いですよね」 へ)

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