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めまい、不眠、恐怖心…それでも“過酷な減量”は必要か レスリング・高谷惣亮の「甘えではない」戦い方
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2021/02/05 11:00
昨年12月に行われた全日本選手権男子フリー92kg級決勝での高谷惣亮(上)。史上初の4階級制覇を成し遂げた
「僕らがやっているのはレスリングです」
「減量がないと心に余裕ができて、レスリングに取り組む意欲が変わってきます。減量があると、普段から体脂肪が何%で何カロリー消費してなど、いろいろと考えながら練習しなければいけないのですが、僕らがやっているのは体重をコントロールする競技ではなくレスリングです。レスリングで勝つためにやっているのですから、体重にとらわれすぎるのではなく、レスリングのことを考えるべきだと思います」
体重調整に気持ちを支配されることがなくなり、その結果「最近になって本当にレスリングって面白いなと思うようになってきたんです」という。
「以前は感覚だけでやっていたのが、今は相手の動きや自分の体の動かし方を理解し、ポイントを取るまでの道筋を理詰めで考えるようになりました。何となくやっていた部分がなくなり、レスリング全体をしっかり見てマッチメイクする感じになっています」
86kg級の日本代表として初めて出た19年3月のワールドカップでは、前年の世界選手権で銀メダルのファティ・エルディン(トルコ)にフォール勝ちし、自信も得た。
4kg以上の減量にはきついところしかない
良かったのは競技そのものの魅力に気づくことができたことだけではない。減量しなくなってからは30歳を超えているのにケガもしなくなった。高谷はリオ五輪アジア予選前の16年2月下旬と、リオ五輪本番で右膝のじん帯を負傷しているのだが、今では大会のたびに約10kgの減量を繰り返したことがケガの遠因になったのではないかと考えているという。
「減量すると体の筋組成が落ちてくるので、今までできていた動きができなくなったり、無理な動きをしたりして、それがケガにつながります」
過度のダイエットが体に深刻なダメージを与えるのは女性も男性も同様だということである。数年間にわたって10kgの減量を繰り返してきた高谷は、このように証言する。
「4kg以上の減量にはきついところしかありません。具体的には、めまいがすることや地に足がつかなくなること。足元がふらついたり、手に力が入らなかったりという、本当に危ない状態になります。練習以外でも、夜に眠れなくなったり、食事に対する恐怖心が出たりもします。以前は“その状態で戦うのがレスラーだ”という考えがありましたが、僕はそうではないと思っています」
中には「水抜き」で減量をする選手もいるというが、高谷は「科学的に考えて水を抜くことが体にいいということはない。若い選手にはやってほしくない」と強調する。
そして、最も深いダメージは心にやってくるという。「休むのが怖くなりますね。だからオーバーワークになります」