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めまい、不眠、恐怖心…それでも“過酷な減量”は必要か レスリング・高谷惣亮の「甘えではない」戦い方
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2021/02/05 11:00
昨年12月に行われた全日本選手権男子フリー92kg級決勝での高谷惣亮(上)。史上初の4階級制覇を成し遂げた
「減量をしないことは、甘えではありません」
今、高谷は「自分史上最強の自分がいる」という自信を持っている。
「86kg級の選手はスピードがそれほどないのですが、軽量級上がりの僕はスピードがあるので、今もこの長所を生かして戦っています。それと、海外の選手とパワー勝負したときには正直勝てない。じゃあどうやって勝つのかと言うと相手をいかに弱めるか。相手の弱点を見抜き、相手の良さを出させないことが肝心です。そういう戦い方をする場合も、僕は減量をしていないので脳がしっかり反応してくれます。減量で苦しいと脳まで酸素が回ってこない。スタミナもなくなり、思考も単調になります」
メンタル的なメリットはどうだろうか。
「減量をしないことは、甘えではありません。苦しいことをするから勝てるのだという意見も分かるのですが、それで勝てなかった時の選手の心は、誰がケアするのでしょうか。多分、負けたお前が悪いということになります。でも、ナチュラルな体重で戦うというのは、それを選んだのは自分自身ですし、どうしたら勝てるかを自分でいろいろと考えなければいけないと思うんです。自分で考える力がつくのが一番のメリット。アスリートにとっては競技シーンで勝つことが一番ですが、競技シーンに限らず、人間としての成長にもつながります」
東京五輪を目指しつつ、高谷は今、その先のことにも目を向けている。
「お前は減量せずに、今の体重で戦った方がいいんじゃないかと言う指導者が出てくることを願っています。これからのレスリング界のために、そういうことも残してあげたいですね」