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堀口恭司を「誇りに思います」 女子トップ空手家・月井隼南が大晦日の“カーフキック”に刺激を受けたワケ
posted2021/01/27 17:00
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
本人提供
「この数週間で隼南は全くの別人になった」
コーチのロクサンダ・アタナソフは月井隼南の成長ぶりに目を見張った。
昨年10月下旬から12月上旬、セルビアで行なわれた世界の女子精鋭空手家を集めた強化合宿。その終盤、合宿参加選手に地元の選手も交えて開催された練習試合で、月井は5勝1分という好成績を残した。
試合内容にも、大きな手応えを感じていた。「その2週間前に行なわれた練習では対戦相手のパワーに押され、何度も吹っ飛ばされていましたからね。この時は私の方から相手を投げたりすることもできました」
「どこに行ってもリスクはゼロではない」
これまで月井は最軽量となる-50kg級でずっと闘ってきた。しかしながらオリンピックでは5階級から3階級に絞られるため、月井はひとつうえの-55kg級で出場を目指す。
合宿への参加メンバーの中で唯一-50kg級だった月井は「上の階級の選手たちと、どれだけ対等に闘えるか」をテーマに臨んだ。その中で練習試合とはいえ、無敗だったことには大きな意味がある。どうやって急成長を遂げたのか。その理由のひとつとして、月井は強化合宿でのフィジカル面の強化を挙げる。「ロクサンダ先生の旦那様は柔道の元セルビア代表で現在はフィジカルトレーナーをやっている。私はセルビア代表で-61kg級の世界王者・ヨハナ・プレコビッチと一緒にずっと同じ練習メニューに取り組んでいました」
コロナ禍での長い海外合宿は、異国での生活が長い月井にとっても勇気が必要だった。決断することができた理由は「いまは、どこに行っても練習を続ける限りリスクはゼロではない」という結論に至ったからだろう。キャンプ地となったアランジェロバツはホテルもないような街で、人口が少ない分だけコロナの感染者数も少なかった。
「だったら日本で電車やバスで移動しながら練習するよりリスクは少ない。合宿中は貸し切りのアパートメントと練習場を徒歩で往復する毎日でした」
もちろん現地の人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。離日する72時間以内にPCR検査を受け、セルビアに入国するとその証明書を出した。その後1日半、誰とも合わない生活を送ってからキャンプに合流した。現地のレストランには行っていない。食事は全て各自自炊という形がとられた。