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直前の“棄権”通告に泣き崩れ…春高バレー前王者・東山に何が起きていたか「これで終わりなんか、と思うとね」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph bySankei Shimbun
posted2021/02/05 06:00
連覇を目指した春高バレーで棄権となり、涙する東山高校の選手たち。あれから1カ月、新チームも始動するなど、それぞれが一歩を踏み出していた
加えて、組み合わせが決まってからはブロックとレシーブの練習にも時間を割いた。2回戦では東海大相模の西山大翔、3回戦で高松工芸の牧大晃、準々決勝で対戦することが想定された東福岡の柳北悠李、福井工大福井の畑虎太郎と、どのチームも世代を代表するエースを擁し、彼らを軸に攻撃を展開する。
分析に基づき、ブロックで跳ぶ位置や手を出す場所を決め、わざと抜かせるコースにはレシーバーを入れ、ボールを落とさず、攻撃につなげる。チーム内のAB戦から互いの意識づけを徹底した結果、松永コーチが「これが完成形と言えるレベルまできた」と自負するほど、対外試合がない中でも成長を遂げ、チームとして戦うトータルディフェンスを築き上げてきた。
「素直に全力では喜べない」
連覇を狙う覇者でありながら、一切妥協せずさらに強くなろうと邁進する。だからこそ「東山を倒したい」とライバルたちも策を練り、技を磨き、ラストチャンスである春高に臨んでいた。だが、その“連覇”も“打倒”も叶えることはできず……。優勝した東福岡の藤元聡一監督も「東山のことを考えると素直に全力では喜べない」と表情を曇らせていたのが全てを物語っていた。
今は振り返るには時間が短く、心残りは未だに消えていない。だが新チーム同様、3年生たちも新たなスタートを迎え、それぞれが「これから」に向け、歩き出そうとしている。
豊田監督が言った。
「やってきたことは間違っていなかったし、自分たちのチームで練習して、AB戦でもこれだけ強くなれるんだと証明してくれた。だからもう一回、また強力な、コロナにも負けない軍団をつくっていきます」
たとえ夢は潰え、記録には残らずとも、歩んだ日々も、記憶も消えることはない。懸命に、重ねた努力をこれからの力にして。どうか逞しく、歩み続けてほしい。