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直前の“棄権”通告に泣き崩れ…春高バレー前王者・東山に何が起きていたか「これで終わりなんか、と思うとね」 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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photograph bySankei Shimbun

posted2021/02/05 06:00

直前の“棄権”通告に泣き崩れ…春高バレー前王者・東山に何が起きていたか「これで終わりなんか、と思うとね」<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

連覇を目指した春高バレーで棄権となり、涙する東山高校の選手たち。あれから1カ月、新チームも始動するなど、それぞれが一歩を踏み出していた

 朝食、夕食の前に必ず検温を行うなど感染対策が徹底されていたホテルでは、6日の東海大相模戦後の夕食時も検温を実施。全員が平熱だった。だが、翌日に向けて治療やケアを行う20時過ぎ、1人の選手が「身体がしんどい」と申し出てきたため、再度検温すると37.5度を越えていた。

 事前に各校へ渡された大会規定では、出場チームの中で大会中に発熱者が出た場合、「試合当日に熱が下がらなければ該当者をホテルなどに隔離する」と定められていたが、発熱者が出たからといって、すぐに大会辞退や棄権が義務付けられていたわけではなかった。発熱者を1人部屋に移し、他の選手とは接触させず、チームは翌日の試合に臨むべく準備をした。

 しかし、翌朝の検温でもその生徒の熱は37.5度以下に下がらなかったため、豊田監督は朝一番で大会本部に電話で事情を説明。規定に則り、発熱者をホテルに残し、感染対策責任者が病院、または発熱センターに連れて行くと告げ、さらに他には発熱や体調不良が出ていないことを伝えた。大会本部からは規定通り、「出場には問題がないため、会場に向かっていい」との判断が下された。

「東山はコートから引き上げるように」

 開場前の朝9時。体育館へ向かうと、発熱者が出たこともあり、前日まで非接触型サーモグラフィーによる検温が、脇へ挟む接触式の体温計での検温に変更された。他校よりも検温に時間がかかったことから、選手たちは会場外で出来る限り身体を冷やさぬように動きながら待機。先に入場した豊田監督は改めて大会本部へ事情を説明した。繰り返し細かく状況を説明するとその時点でも「問題ない」と判断されたため、選手たちは10時からの試合に向けて気持ちを高めていった。

 入場に思わぬ時間がかかり、ウォーミングアップの時間は不十分。ユニフォームに着替え、スパイク練習を始めてからも選手たちのジャンプにキレがなく、不安からか表情も曇りがち。東山高の松永理生コーチは、一度選手を集めた。

「春高のバレーボールは3セットマッチだから、何が何でも2-0で勝たなくてはいけないというわけやない。今、アップができていない不安もあるかもしれないけど、それならば1セットはアップに使えばいい、というぐらいの気持ちで、試合の中でリズムをつくればいいから。まずは今、できることだけやっておこう」

 やることが明確になり、少し選手の表情も和んだように見えた。

 だが、次の瞬間、安堵する間もなく「東山はコートから引き上げるように」と大会本部からの指示が下された。伝えられたのは、37.5度には至らぬものの、入場時の体温が37度を越えていた選手が2名いたこと。そして、前日発熱者が出たことも含め、チーム全員が要観察扱いになるという医師の判断により「欠場」せざるを得ないこと、だった。

 外で動いた直後の検温であることも訴えたが、それが覆ることはなく、ユニフォーム姿の選手たちは、ただただ茫然とするしかなかった。

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