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【箱根駅伝】51秒及ばず…山梨学大「つながらなかった襷」 9区遠藤が“誰もいない鶴見中継所”で思ったこと
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byL:JIJI PRESS R:Yuki Suenaga
posted2021/01/29 17:01
9区を走った山梨学院大の遠藤悠紀(左)が鶴見中継所にたどり着いたときには、10区の渡邊昌紀の姿はなかった
「4年生として、少しでも前との差を詰めて襷を渡そう」
厳しい台所事情だったが、遠藤の9区はわりと早い段階から決まっていた。11月の10000m記録会で自身初の28分台を記録するなど上り調子で、練習も順調に積めていた。これまで3大駅伝を走ったことはなかったが、「自信を持ってスタートラインに立てた」と遠藤は当日の心境を振り返る。
「箱根は小っちゃい頃からの憧れだったんですけど、緊張で硬くなるとかはなかったです。自分は4年生として、とにかく少しでも前との差を詰めて襷を渡そうと。考えていたのはそれだけでした」
遠藤が戸塚中継所で前のランナーを待つ間も、山梨学院大はいったん失った流れを取り戻せずにいた。復路も区間二桁順位が続き、8区を終えた時点で総合19位。前を走る18位の法政大とは2分25秒の大差がついていた。
トップが区間賞ペースでも大丈夫だろうと
現実的に考えれば、この差を1人で追いつくのは容易ではない。むしろ、気にすべきはトップとの差だった。先頭を走る創価大とは16分38秒差。繰り上げスタートとなる「20分以内」を考えれば、これはセーフティにも思えた。走り出した当初は、遠藤もそんな心配はまったくしていなかったと話す。
「自分で決めた設定タイムが1時間9分30秒だったので、仮にトップが区間賞ペースで走っても大丈夫だろうと思ってました。自分の持ち味は前半から突っ込んで、後半も粘れること。箱根も思い切って行きました」
復路のエース区間を任された気概もある。4年生としての意地もあっただろう。遠藤は思い切って前半を飛ばしぎみに入った。気持ちがややキツくなったのは、10kmを過ぎた頃だった。
「10km通過時に聞いたタイムが想定よりも悪くて、もしかしたらあまり走れていないのかもって思ったんです。自分としては体が動いている感覚があったのに、タイムがついてこない。前の選手もまったく見えなくて、そこでけっこうキツくなりました」
それでも懸命に腕を振った。2度ある給水ポイントでは同じ4年生の仲間から力水をもらい、気持ちを振り絞った。思い出したのは、4年間の苦しい練習の日々だった。