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【箱根駅伝】51秒及ばず…山梨学大「つながらなかった襷」 9区遠藤が“誰もいない鶴見中継所”で思ったこと
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byL:JIJI PRESS R:Yuki Suenaga
posted2021/01/29 17:01
9区を走った山梨学院大の遠藤悠紀(左)が鶴見中継所にたどり着いたときには、10区の渡邊昌紀の姿はなかった
「間に合う。諦めるな! 襷を絶対につなぐぞ」
遠藤は兵庫の名門報徳学園高の出身で、前任の上田誠仁監督に声をかけられて同大学に進んだ。「もっと早くから箱根などで活躍できると思っていた」が、故障などもあり思うようにはいかなかった。
転機になったのが、一昨年の予選落ちだ。それまでは漠然と箱根は出て当たり前と思っていたが、現実がそう甘くないことを知る。自身も変わらなければ、未来は変えられないと思った。練習態度を改め、妥協のないトレーニングを積み重ねてきた。だからこそ、諦めるわけにはいかなかった。
残り1kmを切った頃、後ろに付く運営管理車から飯島理彰監督の檄が飛んだ。
「なんとか間に合う、間に合う。諦めるな! 襷を絶対につなぐぞ」
意識ははっきりしていたが、足が思うように動かない。練習時のように進んでいる感覚はなかったが、それでも懸命に足を、腕を、前に振った。
「自分としてはあれが精一杯でした。前半から突っ込むのが持ち味ですし、監督にも『4年生だし行かざるを得ないよな』と後から言われました」
ただし、と続ける。
「監督は『前がいれば面白かったけど、あの状態で1人で走るにはまだ力が足りなかったね』と。そこまでの強さを身につけることができなかったのが、少し残念です」
「もっと強いチームになってくれると信じてます」
遠藤が区間18位と苦しんだ一方で、創価大の石津佳晃(4年)は区間歴代4位となる1時間8分14秒の好タイムで区間賞を奪っていた。その結果、起きたのが今回の繰り上げスタートだった。
悔いがないと言えば嘘になる。が一方で、最善を尽くしたとの自負もある。遠藤はこんな言葉で、最初にして最後の箱根駅伝を振り返った。
「襷をつなげなかったのは残念ですけど、自分の中では陸上をやりきったと今は思えます。卒業後は民間企業に勤める予定で、陸上はあれ(箱根)が最後。ずっと両親には励まされっぱなしで、最後に箱根を走る姿を見せられて良かったです。うちのチームは下級生に力があると思うので、来季以降、もっと強いチームになってくれると信じてます」
襷はつなげなかったが、後輩たちに想いは託した。来季は予選突破後の目標をどう描くかで、古豪の未来は変わっていきそうだ。