酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
戦力段違いのソフトバンクに死角があるとすれば…エース千賀滉大の“酷使度”ぐらい?【記録で振り返り】
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byNanae Suzuki
posted2021/01/20 17:03
レギュラーシーズン、ポストシーズンともに安定感抜群だった千賀滉大。2021年も消耗せず安定した投球を見せられるか
長々とソフトバンクの10月について紹介してきたが、強調したいのは、この月のソフトバンクは、救世主的な選手が表れて大活躍したのではなく、レギュラーメンバーがそれぞれの持ち場で当たり前の仕事をした結果だということだ。
2020年のプロ野球は約3カ月遅れで開幕した。ソフトバンクは、他球団と同様、様々な想定外の事態を乗り越えてペナントレースを戦ってきた。前述のグラシアルの来日遅れ、新加入のバレンティンの極端な不振、正遊撃手今宮健太の左足負傷、そのために本命ソフトバンクは馬群から抜け出すことができず、パ・リーグは混戦となった。
しかし10月に至って陣容が整い、ソフトバンクは本来の強さを発揮しだしたのだ。
ポストシーズンも勢いは衰えず、巨人とは対照的
10月の投打の顔ぶれにフロックで目立った活躍をしてメンバー入りした選手はいない。本来戦うべき選手がそろって白星を量産したのだ。
つまり10月の戦力が「本来あるべきソフトバンクの姿」だったのだ。だから11月以降も、ポストシーズンも、そして日本シリーズも、戦力が全く衰えなかったのだ。
8月にマジックが点灯して以降、なかなか優勝することができずもたもたと試合を消化してきたセ・リーグの覇者巨人とは、実力もメンタルも天地ほどの差があったと言うべきだろう。
2019年の内川と2020年の栗原を比較すると
今季の陣容で特筆すべきは、栗原陵矢の抜擢だ。栗原は捕手登録だったが、今季は開幕で2番一塁でスタメン出場すると以後は一塁、外野で出場し続けた。これによって現役最多安打(2171安打)の内川聖一の出場機会が完全に奪われた。2019年の内川は打率.256、2020年の栗原は.243、ともに打率21位。どちらもそれほどの成績ではないように見えるが、その中身にはかなりの違いがある。
<2019年の内川聖一 RC(Runs Created)は打撃の総合指標>
内川聖一 137試500打128安12本41点3盗 率.256 RC51.85
<2020年の栗原陵矢>
栗原陵矢 118試440打107安17本73点5盗 率.243 RC57.16
RCは積み上げ型の数字なので、試合数が多い方が増加する傾向にある。2019年の内川のRCは51.85、2020年の栗原は57.16。その差は一見大きくないように見えるが、試合数を勘案すれば小さくない。打点も内川の41に対して栗原は73。チームへの貢献度は前年の内川よりも上回っていたのだ。
レギュラー確保とはいえない選手層の分厚さ
ただし、栗原はこれでレギュラーの座を確保したとはいえないだろう。
ソフトバンクには元首位打者の長谷川勇也、オールスターにも出場(2017年)した上林誠知など、他球団なら中軸が務まりそうな選手がゴロゴロと在籍している。栗原は2021年、中村晃なども含めたライバルとの激しいポジション争いを勝ち抜く必要がある。この層の厚さもソフトバンクならではだ。