メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
【追悼】「野茂は年の離れた息子」日本でも愛されたラソーダ、ドジャース優勝“32年前の衝撃起用”とは?
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/01/09 17:02
2017年のWBCにて再会した野茂英雄氏(左)と、トミー・ラソーダ氏(右)
ドジャースも同年、59イニング連続無失点のMLB記録を作るなどして23勝を挙げた同年のナ・リーグ、サイ・ヤング賞投手オーレル・ハーシュハイザーを中心にまとまっていた。しかし、主砲カーク・ギブソンがシーズン終盤に負った脚の故障でシリーズ欠場を余儀なくされており、「アスレチックスが圧倒的有利」との下馬評が流れ、私もそう信じていた。
「アスレチックス圧倒的有利」で見せた“衝撃の起用”
ところがラソーダ監督は、地元ロサンゼルスでの初戦、3対4と1点を追いかける九回二死一塁の場面で「一塁まで走ることもできない」と言われたギブソンを代打で起用し、同選手がエカーズリーから右越えに2点本塁打を放ったことで逆転サヨナラ勝ちをもぎ取り、シリーズでも4勝1敗で優勝してしまったのだ(MVPはシリーズ2勝のハーシュハイザーだ)。
ずっと後になって当時のドキュメンタリーを見た時、ラソーダ監督がいわゆる“カン(勘)ピューター”で主砲のギブソンを代打起用したというイメージは崩れた。なぜなら、サイド気味のスリークォーターのエカーズリーに対する左の代打の起用は、「左打者視線」では理に適った起用法であり、おまけに当のギブソン自身がこう語っている。
「エカーズリーは左打者に対して、フルカウントからバックドア(外角)のスライダーを投げてくるというデータがあった。ファールで粘ってフルカウントになった時、私は打席を外して『おいおい、フルカウントになったぞ、本当にバックドア・スライダーが来るのか』とひと呼吸置いたものだよ」
(ちなみに、フルカントからのバックドア・スライダーを叩いて右翼席にぶち込んだギブソンが一塁に歩き出した時、当時の実況アナウンサーは「ギブソンはベース一周できるのでしょうか!?」と言っている)
まっすぐな「ドジャースを愛しているんだよ」
同じドキュメンタリー番組で、アスレチックスに勝ったラソーダ監督が、勝利の美酒を浴びながら「誰も俺たちが勝つなんて信じてなかったが、俺たちは成し遂げたんだ!」と叫ぶシーンを見た時、鳥肌が立った。
スポーツの熱い瞬間は、何年経っても忘れられるものではないし、追体験として味わっても、新しい感動を生むものだと思い知らされる。そして、1988年のドジャースに関しては、ラソーダの起用法なしには生まれ得ないドラマだったのだと思う。
「私はベースボールを愛している。ドジャースを愛しているんだよ」
ワールドシリーズ制覇の際、すでに野球の名士ともいえる立場にいたラソーダ氏にメディアが殺到した。誰もが彼に「ドジャース愛」を語らせたいと思い、彼自身もそれを分かったうえではっきり、そう言ったのだ。
ここまで野球に愛される人は、これから現れるのだろうか。
トミー・ラソーダ。今はただ、偉大な野球人に畏怖の念を抱き、安らかにお眠りください、と天を仰ぐのみである。