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クロップにナーゲルスマン、今やクローゼも 若き名将とドイツ指導者改革 “ある男の勇気”と協会のアイデア 

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中野吉之伴

中野吉之伴Kichinosuke Nakano

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posted2021/01/12 11:01

クロップにナーゲルスマン、今やクローゼも 若き名将とドイツ指導者改革 “ある男の勇気”と協会のアイデア<Number Web> photograph by Getty Images

クロップを筆頭にドイツ人指導者の充実には、数多くの努力があった

 若さは優れた監督の条件ではない。だが、その指導者が持つダイナミックで、革新的で、野心的で、挑戦的で、理論的な能力を高めるブーストとなる可能性を秘めている。だからこそ、若さに懸けてみる価値が出てくる。

 だから、監督人事を司るポジションにいる者は、指導者がどのような資質を身につけるべきかを知る必要がある。と同時に誰にどのような資質があり、どのように育つかを見極める目を持たなければならない。

トップ監督に抜擢されたトゥヘルの心境

 当時のマインツでは、スポーツディレクターのクリスティアン・ハイデルが監督人事を左右する仕掛け人だった。クロップ監督がクラブを去った後、しばらく監督の大当たりはなかったが、2009年にさすがの手腕を見せる。

 昇格の功労者ヨルン・アンデルセンをシーズン開幕の4日前に解任し、U19監督だったトーマス・トゥヘルを抜擢したのだ。この選択により、ドイツは再び新章を歩み出した。トゥヘル監督自身が、のちに述懐している。

「ハイデルには勇気があった。ブンデスリーガで一度もプレーしたことがないだけでなく、大人を監督したこともなかった僕をトップチームの監督に登用したんだから。それまで、そんな例はドイツにはなかったが、ハイデルはそれをぶち破ったんだ」

 トゥヘル監督の、そして28歳でブンデスリーガ指揮官デビューを果たしたナーゲルスマン監督の成功がドイツサッカー界に新たな風を起こし、数多くの指導者が育成アカデミーを中心にプロクラブで活躍の場をつかんでいった。

 その結果、好循環が進む。

 育成指導者全体のレベルが上がり、育成年代で確かな指導を受けた選手が増えたのだ。もちろん、彼らがすべてプロ選手になるわけではない。しかし、そうした中から指導者としての資質を持った人物が生まれてくるようになったのだ。

論理的な指導を受けた元選手が指導者としても

「選手と指導者は違う」

 これは、どんな指導者も口にする言葉だ。だが、選手時代に論理的な指導を受けてきた人物であれば、指導者としてのキャリアを歩み出しやすい。

 比較的新しいドイツサッカー協会(DFB)の取り組みとして、2015年からDFBユニオールコーチ(若手コーチ)というタイトルで15歳以上の学生を対象とした講習会が開催されており、40時間の講習を無料で受けることができる。

【次ページ】 「ラップトップ監督」への揶揄も存在する

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