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クロップにナーゲルスマン、今やクローゼも 若き名将とドイツ指導者改革 “ある男の勇気”と協会のアイデア
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/01/12 11:01
クロップを筆頭にドイツ人指導者の充実には、数多くの努力があった
一方で元選手が指導者を目指すのは簡単ではない。選手時代の経験が豊富であればあるほど「サッカーのことは何でも知っている。チームをどうすればいいかわかっているよ」という錯覚に陥りやすい。
DFBアカデミーのトビアス・ハウプト主任はこう指摘する。
「統計的に見ると、ドイツでは約50%の元プロ選手監督が、非常に早い段階で最初の監督ポストを解任されています。アマチュアクラブ出身の指導者は、それに対して25%というデータがあります。チャンピオンズリーグに出場するようなクラブで入閣の話があれば、そちらの方が魅力的に見えるし、お金だって多く入ってくる。ただ、自分を育てるための時間を持てない人はあまりにも早い段階でリスクを冒し、そのために落ちていってしまう。
そういう点からもミロスラフ・クローゼの例は非常に注目すべき点だと思います。本人が『まだプロクラブで責任を持って取り組む準備が自分にはない』と語っていました。まだ学びたいと。ワールドカップで優勝し、得点王にも輝いた彼が何を学ぶことがあるのかと思う人もいるでしょう。ただ選手時代の経験だけでは難しい。新しい仕事における確かな基本育成を受けることは、その後の成功におけるカギになる点です」
クローゼは今、コーチとして活躍している
講習会などに参加することで、人を知り、選手を知り、体の仕組みを知り、サッカーというスポーツを知る。それは指導者として欠かせない要素だ。ただ講習会がいい指導者を生みだすわけではない。指導者が成長する場はあくまでも現場である。
クローゼはドイツ代表で指導者としての研修を積み、その後はバイエルンU17で監督を務めて力をつけてきた。そうした下地があったからこそ、現在バイエルンのフリック監督のもとでアシスタントコーチとして活躍できているのだ。
ハウプトは、元プロの指導者が現役時代に培ってきた経験を伝える価値の素晴らしさを、もっと活かせるようにすべきだと主張している。
「大事なのは彼ら元プロ選手が指導者という仕事に情熱的で、学ぶ意欲があることです。ほかにやることがないからという理由であってはならない。ドイツサッカー界には彼らの経験が必要なんです。過去20年は、うまく取り入れることができませんでした。いま我々はフリック、ラルフ・ラングニック、ロガー・シュミット、クリストフ・ダウムなど一線級の指導者の協力を得ながら、アクティブに取り組んでいます。元プロ選手の指導者が持つ性格、経験、知識は、ドイツサッカー界の発展のための貴重なエッセンスなんです」
指導者は、学ぶ姿勢を失ったら終わりだ。世界最高クラスの指導者がいるからといって、今後も大丈夫ではない。さらなる人材を輩出し続けるため、いつまでも、どこまでも歩み続けようという意思が、そこになければならない。