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「慶応に考えさせた」早稲田か、「9連覇“最後の世代”」帝京か…大学ラグビー“新旧”王者の本命は?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2021/01/01 17:02
大学ラグビー準々決勝・早慶戦。後半、突進する早大の村田陣悟
帝京の“リーサルウェポン”
ところがラインアウトはお粗末で、成功確率は12分の8。しかも質の高いボールの確保はわずかで、セットプレーの精度がすべて高いわけではない。
ボールを動かしてのアタックも、洗練とは程遠い。ハンドリングエラーは9個を数え、キックのダイレクトタッチもあった。全盛期の帝京にはさほど頻繁には見られなかったミスである。
しかしブレイクダウンでのターンオーバーは8個を奪い、FWの地力には目を瞠った。
さらに展開による決定力も見せ、後半14分に奪ったトライは、敵陣10m付近からのラインアウトをクイックスローで入れ(このとき、東海大のチェイスが甘かった。直前の帝京の猛攻で疲れていたと見える)、CTBニコラス・マクカラン、SO高本幹也がテンポの良いアタックを見せ、最後に仕留めのプレーを見せたのがプロップ3番の細木康太郎だった。
細木はパスをもらうと、横に走って相手ディフェンスを3人引きつけ、最後は脇の下から逆手でオフロードを「ひょい」とWTBの木村朋也に出すと、トライを演出した。
この試合のMVPは、間違いなく細木だった。
細木はケガのため対抗戦では1試合の出場のみだったが、この東海大戦で復帰。前半の破壊力抜群のスクラムは細木の存在を抜きにしては語れない。帝京の“リーサルウェポン”といった趣だ。
早稲田vs.帝京「Xファクターはラインアウト」
この試合は、帝京にとって「9連覇」の財産をつなげられるかの瀬戸際の勝負であり、早稲田からすれば日本のラグビー界を背負ってきた名門が、令和に入って帝京に引導を渡すまたとない好機だ。この試合の結果は、数年にわたって影響を及ぼすだろう。
まず、得点に直結しそうなのはスクラム戦だ。帝京はシンプルに、スクラムで反則を奪い、陣地を前に進めていきたい。
早稲田は限りなくスクラムの機会を減らし、マイボールスクラムでも早い球出しが求められるだろう。早稲田からすれば、ゴール前でのスクラムを組まれては、分が悪い。その機会をいかに減らすかだ。
そして早稲田としての鍵は、安定したボールの供給を確保したうえでの、アタックの精度の向上である。帝京BKのスピードを考えると、個人技で抜ける相手ではない。角度、タイミングなど「設計図」をどれだけ実行に移せるかがポイントになるだろう。
そして「Xファクター」は、ラインアウトだ。帝京は197センチのアレクサンダー・マクロビーがいるにもかかわらず、安定感を欠いている。一方の早稲田はここ2試合、フッカーの宮武海人のスローイングに不安が残る。
ラインアウトは学習能力によって改善が見込めるエリアであり、両軍のコーチの知恵、腕の見せどころである。
最後に年末に取材したイングランド・ヘッドコーチ、エディー・ジョーンズ氏の言葉を紹介したい。
「今年の大学ラグビー、質が高いですよ。ただし、安定感とは程遠い。クオリティの高いプレーをした方が流れをつかみます。流れをつかむには、シンプルなプレーに徹するか、徹底的に練習をして精度を高めるかのどちらかです」
流れをつかむのは、早稲田か、それとも帝京か?