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中村憲剛「敵を圧倒して勝ちたい」これからも受け継がれる14番の精神…“憲剛化”したフロンターレ
posted2020/12/26 17:04
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
Masashi Hara/Getty Images
かつてイタリアに暮らす友人に、何気なくたずねたことがある。
「この国で尊敬されるサッカー選手は、どんな選手?」
すると非常に端的な答えが返ってきた。
「ひとつのクラブに忠誠を尽くす選手だね」
英国では、ひとつのクラブで現役をまっとうする選手を、畏敬の念を込めて“ワンクラブマン”と呼ぶ。
だがユニフォームを変えるほど大金が動くいまは、世界的に希少となった。
Jリーグきってのワンクラブマン
Jリーグきってのワンクラブマンが、スパイクを脱ごうとしている。川崎フロンターレの背番号14、中村憲剛。J2時代の2003年にデビューしてから18年、川崎一筋でプレーしてきた。
私は一度、中村をインタビューしたことがあるが、そのときの言葉をいま振り返ると非常に味わい深い。
取材をしたのは、2016シーズン終了後のこと。サポーターにとっては、忘れられないシーズンかもしれない。
風間八宏監督が退任したこの年、川崎は悲願のタイトルを目前にしながら、ことごとく鹿島アントラーズに阻まれた。年間勝点2位で進出したチャンピオンシップでは、ホームでの準決勝で敗れ、続く天皇杯でも決勝に進出しながら延長戦で苦杯を舐めた。
憲剛が感じていた鹿島との差
中村が痛感したのは、鹿島との意識の差。勝って当然と思える常勝軍団のメンタリティだった。
「鹿島には、メディアを含めて“勝つのは鹿島だ”と思わせる力がある。実際に常勝時代を知っているのは、(小笠原)満男さんとソガ(曽ケ端準)さんくらい。でも、鹿島の選手から聞いたんですが、周りから強いとか勝てるとか言われるので、“俺ら勝てるんじゃない?”と思ってプレーしているというんです」
「鹿島と違って、俺らは肝心なところで勝てないと思われている。それを今年変えるつもりでした。風間さんが5年かけて創り上げたチームの集大成だったんですよ。だから、ほんとうに悔しい。いや、悔しいって言葉じゃ陳腐すぎる。入団当時を振り返ると、3、4年後に優勝争いをするようになり、これならすぐ優勝できると思っていました。でも現実は、なにも獲らないまま15年目を迎えるわけで……」
そう、中村と川崎は4年前まで無冠のシルバーコレクターだったのだ。