令和の野球探訪BACK NUMBER
ヤンチャな坂本勇人を育てた金沢成奉が語る「自律」と「自立」 鑑別所送りの少年を主将に抜擢したことも
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byNanae Suzuki
posted2020/12/25 11:04
今季2000本安打を達成し、球界に名を残すバッターへと成長した坂本勇人。高校時代はヤンチャだったと金沢監督は振り返る
「自律」させてから「自立」させる
私が心がけるているのは、「律するジリツ(自律)」を先に作って、「立つジリツ(自立)」へ移行していくこと。それベストだと思います。ヤンチャな子どもは、大人から反故にされている部分があるから、負けず嫌いだったり、はね返ることがあったりしますが、自分で考える力はあります。
ただ、それ以前に「人の話を聞く」だとか、「人の言うことを聞く」という「律すること」に不得手な子どもがヤンチャということになる。だから、その順番をはき違えてはいけないと思います。
かつて少年鑑別所に入ったことで強豪の推薦を取り消されて僕のところに来た子がいました。彼にはまず自律を徹底的に、抑えつけてでもやりました。斜に構えてきたり、なめてきたりしたら、言葉は悪いですが、「大人は怖いんだぞ」「大人をなめていたらひどい目に合わせるぞ」と「大人の怖さ」を知らせることをしました。
「教育」ではなくて、「私と子どものケンカ」みたいなものですよね。魂やエネルギーがないと、ヤンチャな子どもに「自律」を覚えさせることはできません。
そのために重視したのが「連帯性」です。1つの線引きとして「人に迷惑をかけない」ということがあります。だから彼を正す必要があった時は、彼がしっかりとするまでは、他の選手も走らせたりしました。そうすることで、「お前ひとりの行動で人に迷惑がかかるんだ」と知らせるようにしました。
エネルギーはもともとあるので、人に対する思いやりや人に迷惑をかけたくないという気持ち、責任を芽生えさせるようにしました。そうしていくうちに、チームを引っ張る主将にふさわしい人間になっていきました。
「野球さえ上手ければいいだろう」
世間にヤンチャな子がそんなにいなくなったこともあり、いまの明秀日立高校にもヤンチャと呼ばれるような生徒はほとんどいません。ただ、真面目に机に座っていても、脳が動いていないために勉強ができないというような子供が以前より増えました。
それでもヤンチャな子はいますが「ヤンチャな子どもたちは脳と心は動いているから、いざというときに役に立つ」という指導者がいます。確かにそうかもしれません。しかし、「野球さえ上手ければいいだろう」「野球が上手いから目をつぶろう」と言って選手を預かったり、指導したりしている指導者も中にはいますけれど、私はそれを絶対にしません。
野球だけやらせておけばいいというスタイルは良くないと思います。それは昔から変わっていない考え方で、坂本には「人間性がしっかりと身に付かないと一流にはなれないよ」と言っていました。やはり、人となりが良くなければ一流にはなれません。