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ヒグマに襲われ死亡したハンターの「顔面」は原形をとどめない…なぜ顔を狙うのか?
text by
伊藤秀倫Hidenori Ito
photograph byGetty Images
posted2020/12/13 11:00
日本では北海道だけに生息するヒグマ(写真はイメージです)
最後の力を振り絞って上方から不意にAさんを襲った
周辺に少量の血痕が残されていたが、急所は外れたらしく、ヒグマはさらに山側へ逃げる。Aさんが後を追うが、周辺はササが茂り見通しは悪い。150メートルほど進んだところで、Aさんは杖にしていた棒を放棄し、さらに追う。ヒグマは今度は斜面を横断するように逃げたが、出血が激しくなったようで、350メートルほど進んだところに大量の血痕があり、しばらくこの場所にうずくまっていたと考えられる。
「Aさんは、おそらくこのあたりでヒグマを見失い、残された血痕をみて周囲を探したものの発見できなかったのでしょう」
後の門崎氏による検証では、ヒグマはそこから50メートルほど下った地点の木立付近に潜んでいた可能性が高いという。Aさんはそれに気づかずその下を通りすぎ、Aさんをやり過ごしたヒグマは、最後の力を振り絞って上方から不意に襲ったと見られる。
加害ヒグマは、Aさんの遺体の下方、40メートルの場所で仰向けになって死んでいた。Aさんの撃った弾はクマの内胸壁に沿って貫通、心肺には銃創がなかったため、徐々に出血し、胸腔内出血による呼吸麻痺で死んだと見られる。
顔を狙う理由をヒグマ博士が解説
Aさんもとくに顔面の損傷が酷かったが、なぜヒグマは、猟師の顔を狙うのか。
「ヒグマは、自分に向けて銃を撃った猟師の顔面を、銃とみなしているからだと考えられます。刃物などで反撃しない限り、ヒグマは猟師が落命するまで、その顔面を集中的に攻撃する。銃という脅威を『排除』するわけです。
また撃たれた一瞬で、猟師の顔を識別記憶する知力がヒグマにはある。だから手負いにしたヒグマを後日、数人の猟師で撃ち取りにいく場合でも、ヒグマは自分を撃った猟師の顔を覚えていて、潜んでいる場所から飛び出して、他の猟師には目もくれず、その猟師を選択的に襲う事例が多いのです」
「動物の行動には必ず目的と理由がある」―—インタビュー中、何度も繰り返されたこの言葉に、動物学者としての門崎氏の哲理と信念が宿っている。
(後編に続く。下の「関連記事」からもご覧になれます)