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ヒグマに襲われ死亡したハンターの「顔面」は原形をとどめない…なぜ顔を狙うのか?
posted2020/12/13 11:00
text by
伊藤秀倫Hidenori Ito
photograph by
Getty Images
雪山の現場には多量の血痕が残されており、その下方には握りの部分が折れた銃や、カバン、帽子、水筒が散乱し、さらに下方にハンターAさんの遺体があった。
死因は出血多量による失血死とされ、その受傷の状況は、右腕、右足を骨折、左腕や頚部などにも裂創があったが、とりわけ額骨、鼻骨、上下顎骨などを複雑骨折するなど顔面に原形をとどめないほどのダメージを受けていた。ヒグマによる顔面への執拗な攻撃は、とくに猟者に対する反撃の場合にみられる特徴だという──。
◆◆◆◆◆
札幌市郊外にある住宅地の一角に墨痕鮮やかな木の看板が掲げられた家がある。
「北海道野生動物研究所」。
野生動物、とくにヒグマに関しては50年以上をかけてその生態からアイヌ民族との関わりまで明らかにした第一人者、門崎允昭博士(82)の“研究拠点”である。
今春、門崎氏が上梓した『ヒグマ大全』(北海道新聞社)は、ヒグマについて氏が50年以上にわたり蓄積したあらゆる知見が惜しみなく書き込まれた白眉の1冊で、ヒグマに興味を持つ筆者にとっては、ぜひ会ってみたい人物だった。
「なぜヒグマは人を襲うのでしょうか?」
「いらっしゃい」と筆者を迎え入れてくれた門崎氏は、銀髪を短く刈り込み、ピンと伸びた背筋は年齢を感じさせない。通された一室には、ヒグマによる事件を報じた明治期の新聞のスクラップや野生動物の行動観察記録、国内外の科学論文など貴重な資料が堆く積まれている。口元に柔和な笑みを浮かべながら、門崎氏は言った。
「さて、何でも聞いてください」
聞きたいことは山ほどあったが、突き詰めると、こんな質問になった。
「なぜヒグマは人を襲うのでしょうか?」