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ヒグマに襲われ死亡したハンターの「顔面」は原形をとどめない…なぜ顔を狙うのか? 

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伊藤秀倫

伊藤秀倫Hidenori Ito

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photograph byGetty Images

posted2020/12/13 11:00

ヒグマに襲われ死亡したハンターの「顔面」は原形をとどめない…なぜ顔を狙うのか?<Number Web> photograph by Getty Images

日本では北海道だけに生息するヒグマ(写真はイメージです)

「排除」「食害」「戯れ、苛立ち」

 この質問に対する門崎氏の回答は実に明快だ。

「動物の行動には、必ず目的(原因)と理由があります。これは人間も同じ。過去の事件を検証することで、ヒグマの人に対する行動規範を理解することが重要です」(門崎氏)

 門崎氏によると、1970年から2016年までの間でヒグマによる人身事故は94件起きており、33名が死亡している。それぞれの事件を検証すると、ヒグマが人を襲う原因は、次の3つに大別されるという。

「『排除』『食害』『戯れ、苛立ち』です。『排除』は、何らかの理由でヒグマにとって脅威となった人間を排除するために襲う。『食害』は、空腹だったり、動物性の食物を渇望しているヒグマが、人を食べる目的で襲う。『戯れ、苛立ち』は、人を戯れの対象とみたり、気が立っているときに狂気的に襲う。このうち、もっとも多いのは、『排除』のために襲うケースです」

「自分を撃ったハンターの顔を決して忘れない」

 94件の人身事故のうち「食害」のための襲撃は11件、「戯れ、苛立ち」は4件、「排除」は実に37件がこれに該当し、うち10件が死亡事故に至っている。

 「排除」のための攻撃は、例えば以下のような場面で起こりうるという。

(1)不意に人間に遭遇したヒグマが先制攻撃をしてくる。特に子を連れた母熊が子を保護するために行う。(2)人が所持している食物や作物、家畜などを入手するため、もしくはすでに入手したそれらを保持し続けるために邪魔な人間を攻撃する。(3)ハンターなど猟者に攻撃されたり、脅威にさらされたとき、反撃に出ることがある。

 興味深いのは、(3)のハンターに反撃したケースだ。というのも、ヒグマとハンターをめぐっては「ヒグマは自分を撃ったハンターの顔を決して忘れない。手負いになったヒグマは、そのハンターを特定して反撃する。とくにその顔面を執拗に攻撃する」という話を聞いたことがあったからだ。

 果たしてヒグマは本当にハンターの顔を認識できるのだろうか。

【次ページ】 一瞬で人の顔を識別・記憶する能力がある

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ヒグマ
門崎允昭

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