球道雑記BACK NUMBER
《ドラフト1位同士の慶早戦》慶大・木澤尚文が思い出す「泣きながらキャッチボールした日」
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byRyotaro Nagata
posted2020/11/06 11:00
先のドラフト会議でヤクルトから1位指名を受けた慶大の木澤尚文
林助監督から言われ、今でも木澤が大切にしている言葉がある。
「初球にその人間の技術が出るんだぞ」
選手たちに口酸っぱく言ってきた言葉だ。
「キャッチボールの1球目、投球練習の1球目、ノックの1捕球目。『そこでバシッと入れない人間が、試合の初回からバシッと入れるのか?』と。この言葉は、主将の瀬戸西純や副主将の僕が、周りの選手たちにもよく言うようにしていましたね」
泣きながらキャッチボールしたある日
木澤が林助監督時代で、忘れられない思い出を教えてくれた。
それは2年春の沖縄キャンプでのこと。当時の木澤は、自分の投げ方が分からなくなって一人で悩んでいたという。高校3年時の右肘靱帯損傷の影響だった。
「靱帯を損傷したときに、たった1球で『ブチン』となってしまったので、どうしても肘を伸ばして投げることが怖くなっていたんです。2年生の最初くらいまではどうしても肘が先に出て……。それがまた怖くて、思うように投げられない時期でした」
そんな木澤に、林助監督はいつも寄り添い、課題をひとつひとつ克服していこうと指導してくれた。
「なんとなく強いボールは投げられるんだけどあっちに行ったり、こっちに行ったりして、自分が確信を持って投げられない。どうすれば効率的に投げられるのか、どうすれば指先を走らせて投げられるか――。林さんも親身になって色々な方面から考えてくれました」
そんなある日、これまで我慢してきた想いが一気にこみ上げてきた。
「投げ方が分からなくなり過ぎて、泣きながらキャッチボールをしたことがありました。林さんとただただキャッチボールしているだけなのに……。それが一番印象に残っています」
泣きながら投げる木澤に林助監督はある言葉をかけた。
「野球は練習すればするほど上手くなるわけじゃないけれど、野球を考える時間が増えれば増えるほど上手くなるよ」
「野球が終わってからで良いかなって」
言われた当初は、何を言っているのか分からなかったと木澤は言うが、大学4年を迎えた今、その意味がよく分かるようになったと言う。
「練習が終った後でもどれだけ野球のことを考えられているかが1つの勝負だなと感じるようになりました。実際に考える時間が増えれば増えるほど、感覚もちょっとずつ良くなって」
林助監督時代に義務付けられていた野球ノートも、動画サイトでピッチャーの動画を見るのも、今では習慣になっている。投球技術を勉強するため、積極的にオンラインサロンに出席したり、全体練習が終わった後は都内のトレーニングジムに通うなど、自身の全てを野球に捧げている。