球道雑記BACK NUMBER
《ドラフト1位同士の慶早戦》慶大・木澤尚文が思い出す「泣きながらキャッチボールした日」
posted2020/11/06 11:00
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
Ryotaro Nagata
雌雄を決するときが来た。2020年11月7日、明治神宮野球場。
6勝2分の勝ち点7で首位を走る慶應義塾大学と、5勝3分の勝ち点6.5で追いかける早稲田大学。どちらかの優勝で決まる秋の頂上対決を前に、慶大・木澤尚文は静かにそのときを待っている。
「東京六大学野球って大学野球の中でも特殊じゃないですか? 入れ替え戦がなくて、毎回戦う大学も決まっている。その中でもやっぱり慶早戦は特別です。これまでの歴史を見ても、僕らが思いっきり投げて、思いっきり打つだけじゃ済まされないところがありますから」
10月26日のドラフト会議で、木澤は東京ヤクルトから1位指名を受け、対する早稲田大のエース・早川隆久も4球団競合の末、東北楽天が1位の交渉権を獲得した。
世間はこの両者の対決を煽り、“ドラフト1位対決”と騒ぎ立てるが、木澤はそうした個人に当てられたスポットがちっぽけに思えるほど、大学生活最後に臨む週末の慶早戦に特別な想いを馳せている。
恩師から教わった“大切な言葉”
木澤は以前、慶早戦についてこんなことを言っていた。
「応援のレベルからして他とはちょっとレベルが違いますよね。慶早戦ってチアリーディングや応援団の方達が毎年、何週間、何時間とかけてその日のために用意してくれている試合でもありますし、試合間のデモンストレーションを見ても『凄いな』といつも感じています。機材の積み込みだって前日の夜遅くまでやっているのを僕達は知っていますからね。逆にそういう試合だからこそ、僕らがやること自体は特別じゃないんです。どれだけ普段と同じ力が出せるのか。それが僕の中での慶早戦なんです」
特別な試合でいかに“普段の力”を発揮できるようにするか――。そんな木澤の考えはある人物から影響を受けたものでもある。慶應義塾大学野球部の元助監督で、現在は朝日大学に勤める林卓史准教授だ。
「今よりも上手くなりたいと思っているところに、いつも良い材料、良いヒントを与えてくれるのが林さんでした。林さんがいた当時は野球ノートを書いて、見てもらっていたんです。そこでアドバイスを貰ったり、時には厳しい言葉が返って来ることもありましたけど、そういうところから色々とヒントを拾って、ピッチャー陣全体で練習していくのが習慣でした」