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《祝 ひとり5連覇》骨折してもグラウンドに立つ 巨人・丸佳浩を支える思考法「平均の法則」とは 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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posted2020/10/31 11:02

《祝 ひとり5連覇》骨折してもグラウンドに立つ 巨人・丸佳浩を支える思考法「平均の法則」とは<Number Web> photograph by Kyodo News

巨人は2連覇。丸は広島時代を含めて“ひとり五連覇”を達成した

安打と凡打の差は「1ミリ、2ミリの差」

 ポジティブ思考か、マイナス思考かといえば、丸は後者のような気がする。プロ1年目から今も変わらない向上心と探究心、そして徹底した準備は、マイナス思考の側面を感じさせる。

 投手が投じて始まる野球において、打者は受け身。打者にとっては打席に立ち、頭を整理するところまでしか自分でコントロールできない。プロで一軍デビューした頃から「あれをやっておけば良かった、というのをなくしたい」と準備に徹底的にこだわるようになった。

 背走して打球をグラブ先に当てながら落球すれば、グラブの素材を固いものにしてもらい、木製バットを湿気から守るためジュラルミンケースに入れて持ち運ぶ。体に良くない嗜好品はやめ、米と肉が中心だった食生活も、夫人のサポートもあり大きく改善された。入団時に手を付けようともしなかった野菜を今では好んで食べるようになった。

“ひとり5連覇”を達成しても

 もちろん打撃には一切の妥協がない。

 プロ入りからバットの型はほとんど変えずに同型のものを使い続けている。ティー打撃やネクストバッターズサークルでは「感覚が気持ち悪くなる」と、マスコットバットも、ロングバットも使わない。ティー打撃のルーティンも同じ。左手1本から始まり、右手1本……と複数パターンのスイングを行い、ケージに向かう。毎日同じことの繰り返し。変わらないことで、わずかな変化を感じ取ってきた。

 安打と凡打の差は「1ミリ、2ミリの差」と言い、「だからこそ、きっちりと積み重ねておかないといけない」とバットを振り続けた。 

 打席に立てば、あとは頭にあるデータと体に染みついた感覚でバットを振るだけ。

 不安や迷い、欲がパフォーマンスに影響する。結果を求めると、力み、フォームを崩し、より打てなくなり、迷うという悪循環に陥る。丸はそういった邪念を削ぐために時間を費やしている。広島では鈴木誠、巨人では岡本と、丸の姿を見ながらシーズンを過ごした若い打者が成長したのも偶然ではないだろう。

 打撃道には答えがない。だからいつも、道半ば。広島で連覇した翌18年の1月、3連覇のために必要なことをこう言っていた。

「個人個人が能力的に昨年と一緒だと厳しいと思う。僕もそうですが、昨年の自分を超えないと厳しい」

 自分を超えるために、“ひとり5連覇”を達成しても、丸は今日もバットを振り続ける。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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