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《祝 ひとり5連覇》骨折してもグラウンドに立つ 巨人・丸佳浩を支える思考法「平均の法則」とは 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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posted2020/10/31 11:02

《祝 ひとり5連覇》骨折してもグラウンドに立つ 巨人・丸佳浩を支える思考法「平均の法則」とは<Number Web> photograph by Kyodo News

巨人は2連覇。丸は広島時代を含めて“ひとり五連覇”を達成した

 2年連続MVPを受賞した広島でも、人気面では意外なことに新井貴浩氏や黒田博樹氏、鈴木誠也らの陰に隠れていた印象がある。巨人には坂本勇人や菅野智之、岡本和真という全国的なスター選手がいる。巨人での優勝会見は右端で、広島時代の優勝会見は左端というのも丸らしい。過去に巨人へFA移籍した選手たちと違って、一等星タイプではないことも、自然体でいられた一因だったかもしれない。

「仕事」と割り切る野球に対する思考力が何よりの成功の理由だったのは間違いないだろう。

広島の先輩・前田智徳氏に説かれた「平均の法則」

 1年目からリーグ優勝に貢献する働きを見せた昨年から一転、移籍2年目の今季序盤、丸の打率は2割台前半に低迷していた。低空飛行がしばらく続き、打順も上位打線から外れ、スタメン落ちも味わった。

 優勝決定後に明らかとなった「骨折」の事実は驚きだった。

 それでもグラウンドに立ち続ける。広島時代には高熱で試合に出て、1試合4打点を挙げたこともあった。丸は、丸であり続けた。きわどいコースには手を出さずに、意識して引っ張ったような二ゴロや一ゴロで走者を進める。つなぎ役としての評価も得た昨年と変わらぬ打撃を貫いた。もしあのとき、取材規制がなく話を聞けていてもきっと、「平均の法則ですよ」と笑っていたことだろう。

 若かりし頃、広島の先輩・前田智徳氏に説かれた「平均の法則」という考え方。長いシーズン、良いときも悪いときもある。良くも悪くも、終わってみれば選手が持っている平均的な成績に終わっている――。

 だから、丸は慌てなかった。自分ができることに徹する。

 ブレない思考力で四球を選び、進塁打を打ち続けた。優勝へ向けた大事なシーズン終盤、丸の成績は打率2割8分2厘、26本塁打、72打点(10月30日現在)。コンディションが万全でない中、試合数の多い昨季に引けを取らない、タイトルすら狙える数字にまで上げた。

 もし、シーズン序盤にジタバタしていれば、この数字はもっと低かったかもしれないし、スターティングメンバーから外れていたかもしれない。

「『平均の法則』=ポジティブ思考」ではない。例年にない好スタートを切った17年シーズン序盤も、彼は「平均の法則ですよ」と笑っていた。好結果にも足元を見つめ、同じルーティンを繰り返す日々を変えない自制心を促す。広島ではチーム内の立場が上がっても、遠征先の宿舎で若手を中心に行われる素振りにも、自主的に参加していた。

 丸にとって「平均の法則」は、目の前の結果に左右されない暗示のようなものに感じられた。

【次ページ】 安打と凡打の差は「1ミリ、2ミリの差」

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