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《祝 ひとり5連覇》骨折してもグラウンドに立つ 巨人・丸佳浩を支える思考法「平均の法則」とは
posted2020/10/31 11:02
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
涼しいドーム球場でも、バスタオルほどの大きなタオルを手に打撃ケージに向かう。「シュッ」と息を吐くように声を出し、ケージから出るとヘルメットを拭く。試合前のルーティンと、打撃用手袋を水分が増すほどグリップ性が高くなる素材に変えた汗かき体質は、今も変わらない。タオルの色が赤からオレンジとなり、ユニホームの色は赤から黒に変わっても、丸佳浩は丸佳浩であり続けている。
10月30日、巨人が連覇を決めた試合もそうだった。優勝を目前にチームは連敗。本拠地東京ドームに戻ってきたヤクルト戦。同点で終盤に入ろうとした6回裏、無死走者なしから1ボールからのカーブに大きく空振りした丸は、打席で笑った。その後、カウント3―1となった5球目フォークを捉えて右中間を破った。一時勝ち越しのホームを踏み、結果この1点が同日の優勝を決めた。
ただ「仕事」と割り切る野球と向き合うだけ
広島からFA宣言をして巨人へ移籍してから、膝を突き合わせる機会はなかった。特に今年は新型コロナの影響から取材制限がかかり、会話らしい会話も、ネット越しに1、2度した程度。ひっそりと成し遂げた“ひとり5連覇”までの心境も、聞けてはいない。ただ、そこには広島時代と変わらない思考力と習慣があったように感じる。
地方球団の広島と、球界の盟主と言われる巨人では、集まる注目度も人気も桁違い。何より伝統球団のユニホームに袖を通した者にしか分からない重圧がのしかかる。FAで移籍してきた選手はなおさらそうだろう。過去にFAで巨人へ移籍した数々の名選手たちが必ずしも前所属と同じような結果を残せなかったことからも、重圧の大きさが窺い知れる。
丸は、ただ「仕事」と割り切る野球と向き合うだけ。群れようとはせず、かといって孤独を好むわけでもない。コロナ禍で精神面での影響をあまり感じなかった選手の1人だろう。家族との時間が何よりの癒やしであり、練習前ロッカーでのゲームが気分転換となる。スイッチの切り替えが明確な分、野球モードに入ったときに集中力を最大限に引き出せる。
人気や名声などに興味を示さないから、周囲の声に惑わされることはない。テレビで笑って受け答えする姿にも無理がない。人気球団の中でも自然体でいられる。