ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
こんな野性味のない比嘉大吾は初めてだ “親友”との決戦で連続KO記録保持者に何が起きたのか
posted2020/10/27 17:02
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
元WBC世界フライ級チャンピオンの比嘉大吾(Ambition)が26日、後楽園ホールのリングで世界2階級制覇に向けて大事な一番に臨んだ。バンタム級でWBC8位、WBA9位にランクされる比嘉は快勝が期待されたものの、結果は日本同級13位の堤聖也(角海老宝石)にまさかのドロー決着。いったい比嘉に何が起こったというのだろうか――。
比嘉らしいボクシングができなかった。ドローという結果以上に、その事実が試合のキーポイントだった。
「比嘉大吾は倒せなかったら負けです」
比嘉の参謀にしてメンターでもある野木丈司トレーナーは試合後の記者会見でそう語った。試合が後半に入った7、8ラウンド、野木トレーナーは「いけ」と比嘉を鼓舞したが、15連続KO勝利の日本タイ記録保持者のエンジンから轟音は響かなかった。
親友から世界ランキングを奪おうと燃えた
フライ級で世界王者まで駆け上がったころの比嘉はスタートから飛ばしていくスタイルでファンを魅了した。その土台はハードなフィジカルトレーニングで培った強靱なスタミナ。陸上の名伯楽として知られた故・小出義雄氏の教え子でもある野木トレーナーのもとで鍛え上げたものだ。スタートダッシュをすることで主導権を握り、スタミナを浪費せずに試合を進めていたことも強さの秘訣だった。
ところがこの日は初回から堤に押された。24歳の同級生、堤はアマ101戦84勝17敗とアマ戦績では比嘉を大きくしのぐ。高校時代には2度対戦して堤が2勝。とはいえそれは7年も前の話だ。プロでの実績からいえばすっかり立場は入れ替わっている。
堤は下位ランカーでありながら高い実力を持つため、対戦相手がなかなか決まらないという不遇を味わっていた。そこに飛び込んできたのが世界ランキングを保持する人気者、比嘉との一戦。千載一遇のチャンスを歓迎した堤は2人で食事をする仲でもある親友から世界ランキングと知名度を奪おうと燃えに燃えていた。