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「一言もJを目指すとは言っていない」いわきFC 震災と台風被害を乗り越えての目的地とは
text by
川端康生Yasuo Kawabata
photograph byYasuo Kawabata
posted2020/10/23 11:00
昨年、JFL昇格を決めた際に大喜びする、いわきFCイレブン。とんとん拍子でJリーグ入りなるか
短期決戦でJ3昇格は大激戦に
しかも15節の短期決戦。となれば激戦必至……と予想された通りのリーグ展開にここまでなっている。
J3に昇格できる百年構想クラブは、ラインメール青森、ヴィアティン三重、奈良クラブ、FC大阪、テゲバジャーロ宮崎、それにいわきFCの6チームである。
このうち現時点で最上位にいるのはテゲバジャーロ宮崎で、もっとも下にいるのは奈良クラブだが、その勝ち点差はわずかに「4」。つまりその間に6チームがひしめいているのだ。
残りは6試合。もはや首の上げ下げで、最後の瞬間にどこが頭を出せているか。そんな争いとなっている。
「今はクラブのカルチャーを」
そんなデッドヒートの中で、少し物腰が違うのがいわきFCである。
シュート18本を放ち、しかもその多くは決定的チャンスで、逆に決定的ピンチはほとんどなかったにもかかわらず、1点差でソニー仙台に敗れた。
この日の試合後、田村雄三監督は「全体を通して前にパワーをかけて戦えましたが、自分たちのミスから失点をしてしまった」とまずは悔しさを漏らしたが、話が進むにつれてそのトーンは変わっていき、最後に口にしたのはこんな言葉だった。
「『残り6試合で昇格のためには?』と訊かれても……。甘いと言われるかもしれませんが、いまはクラブのカルチャーを作っているとき。もちろん目の前のゲームで勝ち点3を積み上げていくことを目指しますが、そのために戦い方を変えるべきではないし、何よりいわきFCのスタイルを築くことがいまは大事ではないかと。負けるたびに僕はそう思うんです」
コンペティションだから勝利を目指すのは当然だが、それとは別に、あるいは、それよりももっと見据えるべきものがある。
そういう意味である。
震災後、市内人口は激しく乱高下した
実は田村監督はこれまでも折に触れてこうした発言を繰り返してきた。その考えが熾烈な昇格争いの渦中にあっても変わらないということを、この日も改めて口にしたのだ。
姿勢が揺らがないのは、このチームのオリジン(成り立ち)によるものだろう。
いわきFCは9年7カ月前の大震災がきっかけとなってできた。地震と津波に加え、原発事故の被災地となった福島県の浜通りでは、復興どころか復旧作業さえままならない地域もあった。
そんな浜通りの中核都市であるいわき市は、発災直後だけでなく、長期的な影響を経済的にも生活的にも受け続けることになった。
死者468人、全半壊4万戸という甚大な被害からはじまり、市民の半数約15万人が避難を強いられ、結果的に約7000人が市外に転出し、その一方で原発周辺自治体からの転入があり……と、人口だけをとっても激しい乱高下に見舞われたのだ。
それが行政にとっても、地元経済にとっても、もちろん市民にとっても、目まぐるしい混乱と変化の日々だったことは言うまでもない。