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「一言もJを目指すとは言っていない」いわきFC 震災と台風被害を乗り越えての目的地とは
text by
川端康生Yasuo Kawabata
photograph byYasuo Kawabata
posted2020/10/23 11:00
昨年、JFL昇格を決めた際に大喜びする、いわきFCイレブン。とんとん拍子でJリーグ入りなるか
原発から避難し、水害の“二重被災”
あるサポーターは2週間風呂に入れず、やっと浸かった避難先の公衆浴場で「福島から、と言ったら、ささっと周りから人がいなくなって……」と苦い思い出を、憤るでもなく淡々と口にした。
「ちょうど定年退職で。あの日は仲間が宴会を開いてくれることになっていて……」
原発で長年働いてきたサポーターは、3月11日のあの時刻、いわき駅から電車に乗り、同僚の元へ向かうところだったという。「もう少し時間がずれていたら、どうなっていたかわからないですよ」と笑いながら話す彼も、いまや赤いレプリカユニホームをまとい、遠方まで応援に足を運ぶ。
サポーターだけではない。クラブスタッフの家族は、原発から避難し、いわき市へ移住して生活を再建したところで、昨年の台風19号による水害でまた被災した。“二重被災”である。
それぞれの人があの日から1日1日を積み重ねて今日を迎え、そして、その物語はこれからも続いていくのだ。
そんなそれぞれのストーリーの続きを輝かせる存在に、もしもいわきFCがなれたとしたら――。
J3に昇格できるかどうかはわからない。<2000人超>のハードルがなくても、6分の2(もしかしたら1かも)としか言いようがない短期決戦の今シーズンだ。
でも、Jリーグ入りすることよりもずっと価値のあるクラブになる可能性が、いわきFCには確かにある。