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センバツ出場予定高校→ヤギ成育&部員1人の農業校へ 磐城高・前部長の数奇な野球人生
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakashi Shimizu
posted2020/10/11 17:00
部員1人の旭農業高校だが、そこにも野球の風景はきちんとある
少子高齢化の典型的な地域で
旭市は東京からJRの特急で2時間半ほど。自然に囲まれた穏やかなところで農業、畜産業、漁業の第一次産業が盛んな土地だ。
ただ、大都市圏から離れた少子高齢化の典型的な地域。周辺中学の生徒が減っていて、高校の生徒数も減少に歯止めはかかっていない。野球部員も集まらない。小林監督が臨任講師で赴任した5年前は十数人の部員がいて単独出場できたというが、そこからは減少の一途で、吉野君の1学年上下には部員はいない。旭農野球部員は現状、彼1人なのだ。
夏の代替大会は周辺の八街、下総、大網、九十九里、市原緑の5校と合同チームを組んだ。この秋の大会も県銚子、八街、下総との4校の合同チームで戦う予定だったが、他校に新型コロナウイルス感染者が出て、試合の前日に辞退が決まったのだという。
吉野君は中学時代、車で数十分の茨城県のボーイズに所属していたという。高校で野球を続けるのは普通の道筋だ。でも、そういう経歴を持った生徒が近辺に少ないという絶対的な問題がある。
ノックでも1人部員であるハンディ
練習はマンツーマンだ。この日の守備練習は監督が外野ノックを打ち上げる。取ったらセカンドベースにいる部長に返球する。打撃練習はバッティングマシン相手に200球ほど打つ。打ち込む球数は多いし、ノックもたくさん受けられる。
だが、重いマシンを押して用具室に片づけるだけで練習と同じほどの時間を費やす。あちこちのボール拾いも監督、部長も加わるが時間がかかる。そこが1人部員のハンディだ。
「たくさんの部員のいるチームで3年間ベンチにいるより、連合で少ない部員でも試合に出られるところでやりたかった」
吉野君の1人でもやる理由だ。
「めげたりはしてないです。もう、ここまで1年半やったんだから、来年の夏まであと1年は続けます」