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センバツ出場予定高校→ヤギ成育&部員1人の農業校へ 磐城高・前部長の数奇な野球人生 

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清水岳志

清水岳志Takeshi Shimizu

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posted2020/10/11 17:00

センバツ出場予定高校→ヤギ成育&部員1人の農業校へ 磐城高・前部長の数奇な野球人生<Number Web> photograph by Takashi Shimizu

部員1人の旭農業高校だが、そこにも野球の風景はきちんとある

今年4月からの異動が決まっていた

 磐城は創立120年を超える伝統校。野球部は49年前の夏、小さな大投手・田村隆寿の活躍で準優勝、「コバルトブルー旋風」はさわやかな話題になった。

 ある雑誌の連載ルポで2019年11月に磐城の取材に伺った。秋の福島県大会で3位、東北大会でベスト8まで進出していて、センバツの21世紀枠で福島県の推薦校になっていた。10月に台風被害にあったときの、ボランティア活動が評価されてのものだった。

 大場部長からはその時に異動のことを聞いていた。

「生徒には言ってないですが、4月からの異動が決まってます」

 常勤講師で5年、体育を教えていて、部長も務めてきたが、2019年の夏の試験をパスし、3月いっぱいで磐城を離れる。正式な教員として4月からは別の高校に赴任する。

 その赴任先が旭市だったのだ。千葉県の試験に合格し、旭市の県立旭農業高校に赴任して、野球部の部長に就任した。千葉の主要な都市は地図で予習したそうだが、旭市は初めて聞いた地名で、すぐに検索したそうだ。

休日練習、グラウンドに来るとヤギが

 訪れたのは残暑が厳しい日。野球部が専用に使っているグラウンドの外野は雑草が生えていて、飼育しているヤギを放すには絶好なのだ。

 休日練習、8時50分にグラウンドに来るという2年生の吉野翼君が言う。

「僕が来るとヤギはもう、グラウンドにいます。監督が連れてきて放してるんだと思います」

 同校は農業高校で畜産科があり牛、豚、鶏を飼っている。ヤギ、ウサギ、ハムスターは愛玩動物にして授業の教材でもある。コースは他に食品科学科1クラス、園芸科2クラス(2020年入学から1クラス)がある。全学年で11クラス、全校生徒400人ほどの小規模高校だが先日、創立110周年を迎えた歴史のある高校だ。

「周辺は養豚農家があったり、野菜を作っている家があって、そこのお子さんたちが通ってます。県内に農業科は14校にありますが、校名に農業がつくのはうちだけです」と小林亮輔監督(27歳)は語る。

【次ページ】 少子高齢化の典型的な地域で

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