甲子園の風BACK NUMBER
センバツ出場予定高校→ヤギ成育&部員1人の農業校へ 磐城高・前部長の数奇な野球人生
posted2020/10/11 17:00
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph by
Takashi Shimizu
校門を入って野球グラウンドの外野の緑色がのぞく。芝生の上で出迎えてくれたのは選手ではなくて、まさかのヤギだった。
千葉県の北東部、旭市にある高校の野球部の話をするのだが、その前に少し説明がいる。
センバツも夏の選手権も中止になった特異な年の高校野球。救済措置の1つとして8月に甲子園でセンバツ出場校による交流試合が行われた。
そこに出場した福島県の磐城高校はセンバツが46年ぶり出場の公立進学校。木村保監督が3月いっぱいで異動することになって、メディアが取り上げた。
3月30日、学校での離任式があって、野球部では最後のノックが行われた。
「保先生、2年間、ありがとうございました」
「夏は甲子園に行きます。見守ってください」
選手はノック前にそれぞれ、お礼の一言を述べてから打球を受ける。木村監督の嗚咽の中で打ったノックの様子をテレビニュースなどが大きく伝えた。
大場部長も異動になっていた
それから4カ月後、交流試合にはセンバツ出場に導いた監督が不在。そこで試合前練習のノックを木村前監督が打つことになって、交流試合でも注目された。
だが、いや、ちょっと待てよ。
異動したのは木村監督だけではなくて、大場敬介部長(31歳)も異動になっているのだ。
大場部長が振り返って冗談めかす。
「3月の最後のノックの日、私は外野のノックを打ってます。映像には映らなくて良かったんですが、もうちょっと、名前は出して欲しかったですね」