テニスPRESSBACK NUMBER
ジョコビッチ“線審不要論”に審判側の意見は? 主審への大事な修行機会だが…
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2020/10/07 11:01
全米オープンでの失態は論外だが、ジョコビッチの線審についての提言は考えさせられるものだ
21歳以下のファイナルズでも……
シーズン末に開催される21歳以下のトップによる『ネクストジェン・ATPファイナルズ』では、2017年の第1回開催から線審をつけておらず、すべてのジャッジを『ホークアイ・ライブ』で行なっている。大会の新設当時、ATPのCEOだったクリス・カーモード氏は「将来のテニスの革新に備えて、さまざまなアイデアを試験的に行なっていきたい」と説明していた。
ウイルスによって「人から機械へ」の動きが加速することまで想定内だったかどうかはわからないが、今となっては重要な実験期間だった。ニューヨークでの2大会では最大の懸念だったと思われるシステム障害も生じず、全米オープンのトーナメント・ディレクターのステーシー・アラスター氏は大会最終日に胸を張ってこう報告した。
「この4週間、ホークアイは驚くべき成功をおさめました。際どい判定は1万1000件以上あったが、まったく揉め事は起こらなかった。これ以上ない満足感です」
線審を積み重ねてから主審になる
ただし、「今年に限った実践であり、来年のことは決めていない」とも付け加えた。全仏オープンにいたっては、補助的な役割に限定される『ホークアイ』すら導入する予定はないという。「主審による球痕の確認で事足りている。揉めるケースはごくごく稀で、多額の費用をかけてやることではない」というのがフランステニス連盟のスタンスだ。
ジョコビッチは会見でこう呼びかけていた。
「『伝統を守る』ということ以外に、線審をつける大切な理由がもしあるなら、誰か教えてほしい」
ジョコビッチを説得できるかどうかはともかく、「人間による審判は主審だけでいい」という主張を展開するなら、1つ見落としてはいけないことがある。それは、グランドスラムの決勝を任されるような主審も含めてほとんどの主審が、線審としての長い経験を積み重ねてあの審判台に座っているということだ。