酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
星稜OB監督の「脱エリート/自分で考える野球/髪型自由」 大阪で指導法を変えたワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2020/10/05 11:00
大阪学芸高校の監督を務める小笹拓。星稜OBという肩書がある中で、新たな指導スタイルを実践している
「練習したいんです」と自発的な声が
チームは少しずつ強くなっている。夏の地方大会では4回戦くらいまでは進出するようになってきた。
「有力私学、公立の強豪と当たるまでは取りこぼしはないというイメージはついてきました。指導方針を変えて、子供たちの意識も変わってきたと思います。うちの学校は、室内練習場がありません。少しの雨なら練習をしますが、本格的に降ったら休みにします。
最近は、子供たちが、“先生、今日は休みですか?”と聞きに来るんです。“今日はこの雨やし、だめやろ”と言うと、“僕ら練習したいんです、こんな練習ならできると思いますが”と言ってくるようになりました。
子供たちの方からうまくなりたいという向上心が見えたのは大きいですね」
こんな機会やから家で勉強をしっかりと
新型コロナ禍の自粛期間も、小笹監督は明確な方針を生徒に伝えた。
「生徒たちに言ったのは“極力外に出るな”ということです。報道によれば、他校は何人かで集まらせて練習メニューも指示したようですが、うちはリスクマネジメント第一で、感染を防ぐことを優先しました。コロナがどういう病気で、罹ったらどうなるのかがわからない状態だったので、とにかく感染しないことを最優先にしなさい、野球よりも命を優先しよう、と言いました。
そのうえで、家でできることをやりなさいと指示しました。また“こんな機会やから家で勉強をしっかりやりなさい”とも言いました。時間ができたら、美術館行くのもいいし、自分の知らないことに触れて感性を磨くのもいい。もちろん感染対策をしながらですが、自分で考えてほしかった。
私が現役の時は野球一辺倒で、休みもありませんでした。そのことには違和感を持っていました。そういう意味でも、コロナ禍でできた時間を有意義に使ってほしかったんです。
コロナ明けの生徒の体調は、意外に悪くなかったですね。彼らはYouTubeなどを参考にして自宅でできるトレーニングをしていたようです。日ごろから、自分たちで練習メニューを考える指導をしていたことが、よかったんじゃないでしょうか。急激に体力が落ちているとか、全然走れないとか、そういうことはなかったですね。選手の自主性を信頼してよかったと思います」