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『半沢直樹』の強さの理由はどこにある? 銀行員剣士が語る、仕事につながる剣道の精神性 

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雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byHideki Sugiyama

posted2020/09/27 20:00

『半沢直樹』の強さの理由はどこにある? 銀行員剣士が語る、仕事につながる剣道の精神性<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

お話を聞かせてくださった三菱UFJ銀行剣道部の皆さん。左から川村さん、齋藤さん、三浦さん、竹原さん

肉体的には負けるはずがないのに…

 優勝メンバーの1人で剣道部の主将、恵比寿支店で法人営業をしている入行7年目の三浦生雅(いくま)さんは、それこそが剣道の特徴ではないかという。

「どんなに強いチームがいても毎回勝てるわけじゃない。そういう性質の競技なんだと思います。瞬間瞬間の競技で、気持ちと気持ちのぶつかり合いでもある。そこが面白いところですし、絶対がない分やりがいがあります」

 易々と引っくり返る勝負の裏表。同じく優勝メンバーで、現在は四谷支店で中小企業の融資担当をしている入行3年目の川村太郎さんも同じように感じている。

「その理由は剣道の強さがすごく“アナログ”なところにあるからじゃないかと思うんです。サッカーでも野球でも、筋力や動体視力、そういうフィジカルな要素がモノをいうと思いますが、剣道はそれだけじゃない。八段(剣道の最高段位、七段取得の後10年以上修業し、かつ46歳以上が昇段審査の条件)の先生に稽古をお願いすると、全然かすりもしないんです。肉体的には負けるはずがないのに、パッと構えた時にわかるんです。これは打てないなって」

 強豪大学の中大出身の三浦さんでも同じ経験をしている。

「相手の構えた竹刀から出る気迫というか、私たちのような20代の選手も、70代、80代のお年を召された八段の先生方を前にすると打っていけなくなります。技とか身体じゃなくて、『気』。気持ちですね」

「負けに不思議の負けなし」も剣術家由来

 体重も身長も年齢も区別のない戦い。見透かされ、見切られたら、相手がどこまでも巨大に見えてくる。逆もまた然りだ。

 だからこそと言うべきか、剣道にはその精神性に関わる言葉が多い。

「一眼二足三胆四力」「不動心」「交剣知愛」「剣心一如」「明鏡止水」

 サッカーにおいてボランチやシャドーといった用語によって、そのポジションや役割が認知されていったように、精神を表す語彙の豊富さは、剣士たちの心の養成を助けてきたのに違いない。ノムさんでお馴染みとなった「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」も元は江戸時代の剣術家の書物に由来している。

【次ページ】 「やられたらやり返す、倍返し」ではなく

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#半沢直樹

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