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『半沢直樹』の強さの理由はどこにある? 銀行員剣士が語る、仕事につながる剣道の精神性 

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雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byHideki Sugiyama

posted2020/09/27 20:00

『半沢直樹』の強さの理由はどこにある? 銀行員剣士が語る、仕事につながる剣道の精神性<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

お話を聞かせてくださった三菱UFJ銀行剣道部の皆さん。左から川村さん、齋藤さん、三浦さん、竹原さん

「やられたらやり返す、倍返し」ではなく

「私が好きなのは『打って反省、打たれて感謝』です」

 入行5年目、2016年の全日本実業団女子剣道大会優勝時の一員でもある齋藤美樹さんが挙げた言葉。そこには、やられたらやり返す倍返しよりも施したら施し返す恩返しの精神がある。

「自分が勝ったとしても本当にこの勝ち方でよかったのかと反省する。負けたとしても、相手が反省する機会を与えてくれていると考える。大事なのは謙虚な姿勢なんです」

 その姿勢は、浜田山出張所で個人の資産運用を担当している現在も欠かせないものだ。

「剣道で重んじられる礼儀は、お客様に対してもすごく大切なもの。お客様は自分が思っている以上に自分のことを見ていると思うんです。だからこそ剣道で培った謙虚さが、日々の仕事にも生きているなと思いますね」

 好きな言葉に同じものを挙げた川村さんの説明には、独特だがうなずけるものがあった。

「“謙虚であることはいいことだ”と言われると思うんですけど、いい悪いの話ではないと思うんですよね。いいことだから謙虚になるというのは、僕は違うんじゃないかと思っています。自分が上手くなりたいという意欲があるなら、それを叶えるための一つの方法として“謙虚”というものがあるんだと。まあ、個人的にはなかなか『打たれて感謝』までは行き着けませんが(笑)」

 理想を振りかざすだけではない。得るものと引き換えにそうする。誠実であろうとするのと同時に狡猾で現実的な態度は、まさに仕事に役立つものかもしれない。

剣道の精神性は競技によって教えられる

 なんだ精神論かと他のスポーツならばそう切り捨ててしまってもいい。だが、剣道ではそう簡単にできない理由がある。なぜなら精神性が競技のルールそのものに組み込まれているからだ。

 剣道では、有効な打突について「充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるもの」と規定されている。面、小手、胴など決められた部位をただ叩いただけでは一本とみなされず、「気剣体の一致」が求められる。まぐれ当たりではダメなのだ。

 そして、打突後に身構え、心構えを崩さない「残心」も不可欠。すぐにガッツポーズをしていたら、どれだけきちんと命中していても一本は取り消されてしまう。

 その特徴的なルールによって、剣道の精神性は偉い人のお説教によってではなく、競技そのものによって剣士に深く染みこんでいく。

【次ページ】 『半沢直樹』を銀行員から見て

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