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石川祐希は憧れではなく、ライバルであるべき 海外挑戦へ警鐘鳴らす古賀太一郎の言葉の重み
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byTakahisa Hirano/AFLO
posted2020/09/24 11:40
リベロの古賀太一郎は5シーズンに渡って海外でプレー。昨季までポーランドのヴァルタ・ザビエルチェに所属していた
石川は憧れではなく、ライバル
その矛先は、当然ながら次世代にも向けられる。
古賀はポーランドから帰国した後、6月から味の素ナショナルトレーニングセンターで行われた日本代表合宿に参加した。古賀、石川に新井雄大(東海大)、大塚達宣(早稲田大)、高橋藍(日体大)の3名の大学生を加えた5名での合宿時も、考えさせられることが多くあったと古賀は振り返る。
「(大学生たちは)能力があるのは間違いない。でも若手らしくないというか、ガツガツした貪欲さというのは感じられなかった。日本の枠組みの中では彼らは大学生というカテゴリーで、日本代表合宿も憧れの石川選手とできる場所と思っていたかもしれないけれど、世界に目を向けたらそうじゃない。海外では18歳は決して若くないし、すでにプロとして活動する彼らは『この人みたいになりたい』ではなく、虎視眈々と『このポジションを奪いたい』と狙い、戦っています。
日本では大学、Vリーグ、とカテゴリーが分かれているので、限定された場所で受ける刺激も少ないし、今、目の前のことしか考えなくていいかもしれないけれど、将来を見据えればそれだけじゃ足りない。いいものを持っている選手たちだからこそ、大学生だからこのレベルでいいではなく、今どうすべきで、この先どうなりたいか。“憧れの石川選手”ではなく、“石川はライバル”と思わなければそのレベルに達することはできません。もっと視点を上げなきゃいけない。
彼らが将来海外を目指すのは素晴らしいことだと思うし、僕も海外推進派です。実際行けばわかること、学べることがたくさんあるけれど、それと同じかそれ以上に厳しい世界であるのも間違いない。海外へ行く、やると決めたら死ぬ気で頑張らないといけない。そういう世界だと思っています」
古賀がFC東京で感じるやりがい
もちろんそれは自らも同じだ。これまでの5シーズンと異なり、日本でプレーすることを決めた今シーズン。場所は変わってもプロはプロ。その場で与えられた責務を果たし、結果で示すことがすべて、と言っても過言ではない。
「FC東京の選手は仕事もして、バレーもする。実際大変ですよ。でもそこで結果が出せなくても『俺らは仕事もしているんだから、これで十分だし仕方ない』と充実感を感じているようでは上にはいけない。本当は選手たちだって、その環境で頑張っていることだけじゃなく、勝って評価されるべきだし、そうなりたいんです。だったら、意識を変えないといけないし、そこが変われば練習のクオリティは変わります。
自分がプロだから“俺のやり方によせろ”と押し付けるのではなく、真夏の40度近い中、外で営業して、練習もする大変さを理解しながら、バレーボール選手としての意識、やり方、変えるべきだと思うことはどんどん指摘する。個々の能力を見れば、下位に甘んじるような力じゃないですから。もっとやれると思うし、もっと変わる。だから、やりがいはものすごく感じています」
結果で示すことでクラブの価値を高め、自らの評価も高める。それがいかなる時も果たすべきことであり、プロとして、生きる覚悟――。
自分の価値を信じているのは、他でもない。自分自身だ。