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セルビアで得点ランク首位、浅野拓磨の選択が“賢い”理由 サッカー選手に一番大切なものって何?
text by
中野遼太郎Ryotaro Nakano
photograph byGetty Images
posted2020/09/22 11:50
セルビアリーグの強豪・パルチザンの得点源となっている浅野拓磨。「ちがい」を見せることで自らの評価を高めている
試合に出続けることの大切さ
彼は「ちがい」を作れる場所で毎試合プレーして、結果として得点ランキング首位に立っています。東欧での実績を獲得していくことは、おそらく日本の皆さんが想像するよりも大きな評判となって波及していくでしょう。僕は彼の移籍の経緯も真相も全くわかりませんが、目に見える事実として、今季の得点数は既にに過去3年間の総得点数を上回っています。浅野選手は「アーセナル」の看板を一度落ろしたところで、ASANOというプレイヤーとして、もう一度評価され始めているのではないでしょうか。
日本代表選手が、セルビアという国を選択するのは、おそらく簡単なことではありません。スタジアムの質から、選手の質、移動も食事も文化も、適応するのは「難しい」部類に入るのではないかと想像します。しかし、サッカー選手にとって何よりも大切なことは、スタジアムの質や街の景観、莫大な給料ではなく「試合に出続けること」です。もう少し言えば、「試合に出てちがいを作り続けること」です。
日本人にとって「出戻り」は容易ではない
特に日本人選手は、一度日本に戻ってしまうと欧州に「出戻り」することが非常に難しい。それは物理的な距離だけが理由ではなく、まだまだ日本人は「フタを開けてみないと分からない」という印象を拭い切れていないからです。
海外にいると実感しますが、僕たちは世界を見渡しても独自性の高い文化、生活習慣を有しています。これは以前にも書きました。振る舞いも、冗談の文脈も、文法も思考も言語も、多角的に異なっています(僕はだいたいの場合において、それは素晴らしいことに感じています)。一方で欧州側の視点に立つと、そのちがい故に「開けてみてうまくいかなかった選手」に対しては、厳しいレッテルが貼られてしまう。クラブはその要因をピッチ外の適応にも見るからです。
僕たちはどちらかと言えば(NAGATOMOというモンスターを除いて)ロッカールームで主役になれる国民性ではない。どちらかと言えば、淡々・黙々と物事に対処していく場面が多く(これが「異様に口数が少ない、意見がない」と受け取られることがある)、言葉を自由に操れる選手も少ない。そして一度そういった側面から適応が難しいと思われたまま日本に戻ると、その評価を取り返すチャンスがほとんどない。例えば欧州内の選手のように、自国で一旦態勢を整える、ということがあまり上手に機能しない。
だからこそ、欧州の主要リーグ以外の、東欧や北欧のような国の「名門」と呼ばれるクラブをもっと活用する日本人選手が増えればいいなと思っています(それは僕自身がその地域にいるので近くに日本人の友達が欲しいという事とは全く、全く関係がありません)。