スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
甦ったケンブリッジ飛鳥の進化は止まらない。高橋大輔の元トレーナーが支えるオリンピックへ続く道。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAsami Enomoto
posted2020/09/03 20:00
セイコーゴールデングランプリで安定した走りを披露したケンブリッジ飛鳥は直後に自己ベストを更新し、復調を見せつけた。進化はまだ止まらない。
ケンブリッジと高橋の繊細さ。
カレンダーが2020年になって、オリンピックイヤーを迎えた。1月下旬からケンブリッジは沖縄で合宿を行ったが、そこに予想外のことが起きる。新型コロナウイルス禍だ。感染が拡大していき、本拠地の東京に帰ることもままならず、結局は3月下旬まで沖縄でトレーニングを続けることになった。オリンピックは延期になり、社会は変容を迫られたが、陣営にとってはプラス面もあった。
「一切、余計なことが出来なくなりましたので、トレーニングに集中する環境になっていましたね。ケンブリッジ選手とのコミュニケーションの機会も増えたので、私にとって参考となる有益な情報が入ってきて、やりやすくなりました」
時間が経つにつれ、ケンブリッジの性格、身体感覚について用いる言葉を理解できるチャンスも増えていった。
「メディアの前では強気な発言が多いとは思いますが、トレーニングを始めてみると、とても柔軟な発想の持ち主でした。トレーニングや身体作りの面では、とても繊細です。そのあたりは、高橋選手と似ていますね。身体感覚について、ふたりともいい言葉というか、適切な言葉で返してくれるんです」
見せた大きな進化の陰に。
東京オリンピックが2021年に延期され、今年の陸上シーズンの開幕も夏場にずれ込んだ。しかしここまでの3戦で、ケンブリッジは大きな進化を見せた。ひとつはスタートの部分だ。この部分には集中的に取り組んできたと渡部氏は語る。
「ケンブリッジ選手の場合、どちらかといえば後半型と言われてきました。他の日本人選手と比べると少し重心が高く、骨などのパーツも長いので、前半の出力、スピードの出し方に課題があったんです。今年はその克服に取り組んできて、実際に効果が上がっているという手ごたえがありました」
左右のバランスを整え、スターティングブロックを蹴り出すことで得られるパワーを前方への力へと変換させる。スムースなスタートは、滑らかな中間疾走を生み出す。ただ、言うのは簡単だが、繊細な技術である。