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甦ったケンブリッジ飛鳥の進化は止まらない。高橋大輔の元トレーナーが支えるオリンピックへ続く道。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAsami Enomoto
posted2020/09/03 20:00
セイコーゴールデングランプリで安定した走りを披露したケンブリッジ飛鳥は直後に自己ベストを更新し、復調を見せつけた。進化はまだ止まらない。
桐生の隣のレーンで走るということ。
「スタートは難しいですね。一歩目のパワーが少し外に逃げると、バランスを崩してしまい、前へ進む力が弱くなってしまいます。ゴールデングランプリの時は、正直、もったいなかったです。スタートして顔が持ち上がるのがちょっと早く、全体の印象として力んでいるな、という感じがありましたから」
力んだ要因として考えられるのは、桐生の隣のレーンで走ったことだ。実は、このレースではふたりとも力んでしまった印象があり、決勝でのタイムは予選よりも悪かった。
「並走した時に自分の走りが出来るかどうかは、トップアスリートでも抱える課題ですね。真っ直ぐのレーンを走って、誰にも邪魔されるわけではないのに、力むと動きがおかしくなる。ただし、そうしたレースを経験することが課題を解決するきっかけになります」
10秒03で見せた彼の本当の走り。
1週間後に行われたナイトゲームズ・イン福井では、その課題が見事に克服されていた。前半から滑らかに加速したケンブリッジは、後半も失速幅を抑え、10秒03の自己ベスト、日本歴代7位タイのタイムで1着に入った。ケンブリッジはレース後、これまでの取り組みを次のように振り返った。
「2017年とか、今までは力任せな部分や丁寧さに欠ける部分があったと思うんですが、今シーズンはレース全体の流れを通して、前半からすごく丁寧に入っていけているのかなと思います」
渡部氏が挙げた課題を、ケンブリッジ自身が確実に解決していることがうかがえる。
進化途上のケンブリッジを見ると、10月に行われる日本選手権が楽しみになってくる。渡部氏は10月に照準を合わせつつも、来年以降へと視線を定める。
「前半の取り組みに対してのトレーニングはある程度成果が出てきたので、その力を後半につなげるのは、まだこれからというところです。今年最大のターゲットは日本選手権ですが、ある程度の走りが出来たとしても、今のまま代表に選ばれても海外の選手たちと渡り合えるかというと、あともう一つ、二つ伸びないと、まだ厳しい部分もあります。ただし、ケンブリッジ選手本人も『自信をもって9秒台が見えてきたと言えるようになってきましたし、コンスタントに出していけば自ずと狙っていけるのかなと思います』と話しているので、そのお手伝いが出来ればと思います」