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錦織圭欠場も異例づくしの全米開幕。
影響必至の暫定ランキング制度とは。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2020/08/30 11:50
全米オープン参戦を決めたジョコビッチ。暫定ランキング制度の中でも強さを見せつけるか。
ナダルやハレプらが欠場を決めた。
全米に話を戻そう。この全米では出場する選手の行動も制限される。基本的に大会側が定めたホテルに缶詰めになり、会場への往復はシャトルバスを利用、食事はホテルでとり、個別の外出は厳しく制限される。大会期間中の選手にとって外食は貴重なリラックスタイムだから、これが許されないのはつらいだろう。
まさに異例ずくめの大会だが、男子のラファエル・ナダルやスタン・ワウリンカ、女子のアシュリー・バーティ、シモナ・ハレプら、トップ選手の欠場表明も相次いだ。これほど主役クラスが欠場するのは、過去の四大大会ではなかったことだろう。
感染拡大が収まらない米国での開催を不安視する気持ちはよく分かる。入出国時の検疫や自己隔離の煩わしさも影響しているだろう。加えて、コロナ禍でのツアー再開にあたって暫定ランキングシステムが施行されたことも、欠場する選手が増えた理由の1つだ。
錦織も昨年のポイントが残ることに、
世界ランキングは本来、過去52週の成績で算出されるが、暫定システムでは'19年3月から'20年12月までの成績を見て、男子は獲得ポイント上位の18大会、女子は16大会の加算で決まる。2年続けて同じ大会に出た場合は、成績がよかった方だけが加算される。
つまり、通常は獲得したポイントは1年後に失効するが、暫定システムでは前年のポイントが残り、なおかつ、同じ大会で昨年を上回る成績を残せばそちらのポイントが採用されるのだ。
要は、前年の獲得ポイントをディフェンドする(守る)重圧と戦う必要がなくなったのだ。全米に出場するか否か迷った選手も、感染リスクとポイント失効の板挟みに悩む必要はなかった。このことが欠場を決断する際のハードルを下げたと推測される。
ノバク・ジョコビッチも指摘しているように、昨年の全米優勝者ナダルが欠場を決めた背景には、この暫定ランキングシステムがあったと思われる。
昨年の全米を最後に右ひじの故障で戦線を離脱、この8月には新型コロナウイルスに感染して全米を欠場する錦織圭には、復活に向けて厳しい戦いが待っている。ただ、暫定ランキングシステムによって、昨年の全仏とウィンブルドンで共に8強入りしたポイントが残るのはプラス要素だ。
この暫定ランキングシステムは、今後のツアーの情勢にも影響を及ぼすだろう。