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大橋ジムのホープ2人がデビュー勝利。
アマのプロ転向が続く理由は? 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2020/08/26 11:40

大橋ジムのホープ2人がデビュー勝利。アマのプロ転向が続く理由は?<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

アマ8冠の前評判通り、危なげなくデビュー戦に勝利した中垣龍汰朗。目指すはもちろん世界だ。

それでも立て直し、4回TKO。

 しかし、ここで冷静に立て直せたことが松本の勝利につながった。ジャブを突きながら試合を組み立て、右ストレート、左ボディもバンバンと打ち込んでペースを掌握。アマ出身のサラブレッドというイメージとは異なる好戦的なボクシングで攻め続け、4ラウンドに連打を決めたところでストップ。4回34秒TKO勝ちだった。

 試合後の松本は「ダウンは生まれて初めて。いい経験になった。20戦して1度もTKO負けのない選手にTKOで勝てたのはよかった」と前を向きながらも、「1ラウンドでダウンしたので、僕も倒したかった(ダウンを奪いたかった)」と悔しそうに語ったのが印象的だった。

 無事にデビュー戦を終えた松本と中垣だが、プロデビューにあたっては新型コロナウイルスの影響をもろに受けた。まずは3月に後楽園ホールで予定されていたプロテストが国内の興行中断によって中止に。

 これは日本ボクシングコミッションが、興行中断前に申し込みのあったB級プロテスト受験者に限り、特別にジムでのテストを許可したためことなきを得た。

相手が日本人だったからこその経験。

 もう1つの問題は対戦相手だった。アマチュアで実績のある選手は、実力に見合った対戦相手が見つからず、自ずと海外から選手を呼ぶパターンが多い。「アマ出身選手を育てるのはお金がかかる」とよく言われる理由はこういうところに要因がある。

 大橋ジムの大橋秀行会長も当初、松本と中垣の相手をフィリピン選手と考えていた。ところがコロナ禍により外国人選手の招へいが難しくなり路線を変更。なんとか日本人の対戦相手を見つけることができた。

 だが、結果的にこれはよかったのではないだろうか。松本はデビュー戦で初回にダウン、そこから立て直すというまたとない経験を積むことができたからだ。大橋会長は試合後、次のように話していた。

「(初回のダウンは)あれ、アマチュア出身選手が一番やられるパターンなんです。左に渾身の右を合わせるのはアマチュア殺しのセオリー。狙ってくると思ったから圭佑にも中垣にも、首の運動をよくしとけよって言ってたんですよ」

 おそらく三宅陣営は松本のことを研究し、対策を練っていたことだろう。日本人選手だからこそ、松本の注目度も、松本に勝てばかなりのインパクトを残せることも知っていた。外国人選手だったらこうはいかなかったはずだ。

【次ページ】 五輪の延期もプロ転向を後押し。

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