野球善哉BACK NUMBER
公立でも複数の投手は育てられる。
甲子園中止が可能にした新采配。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/08/02 08:00
甲子園優勝を目指す学校でも、普通の公立校でも、投手は複数いた方がいい。ならば何を躊躇することがあるのだろうか。
日本中で、複数の投手が投げている。
公立校の投手が、3人も4人もマウンドに上がる。
細かな統計をとったわけではないが、他の地区の試合を見ていても、背番号二桁の投手がマウンドに立っていることが多い。おそらく今年はどの地区も、私学・公立に関係なくこのような状況なのではないか。
岩手大会で、3年生部員37人全員出場を果たして準優勝した盛岡大附の関口清治監督は「どういう形で試合に出していくかのマネジメントでかなり悩んだ」そうだが、大会の空気の違いを大きく感じたという。
「今年はどの学校も全員出場を目指す大会になっていたと思います。ですから、いつもの大会のような張り詰めた緊張がなく、みんなで楽しむという空気感はすごくありました。
そこが一方で難しいところでもあったんですけど、ベンチ入りのメンバーを入れ替えることができたのは大きかったですね。前半の3試合でほぼ全員が出せて、準決勝と決勝はベストの布陣で戦いました。優勝できればもっと良かったんですけど、みんなでやりきったという気持ちは出ていたと思います」
負けたら終わりではないリーグ戦の設立を。
とはいえ奈良北の坂口監督や関口監督の起用が可能になったのは、今大会が甲子園に繋がっていないからなのは間違いない。甲子園の存在が絶対である以上、公立校であっても勝利を優先すれば二番手以降の投手を積極的に起用できるものではない。
今年はどの地区にも「3年生をできるだけ起用する」という空気があったからできた采配であり、来年以降も同じ理屈が通るのかというとそう容易ではない。
だから声を大にして言いたいのは、夏の大会の他に、負けても良い大会を作るのが大事だということだ。負けても甲子園を失わない公式戦があれば、多くの投手を起用する機会が増える。そして起用されることで自信を掴む選手は確実に出てくるし、そうなれば首脳陣の起用法も変わってくるだろう。
新型コロナウイルスの猛威は、スポーツ界に大きな打撃を与えたが、一方で副産物も生まれている。その1つが指導法の見直しで、もう1つが公立校にも複数の投手を育てられる事実である。
「公立校で複数の投手を育成するのは無理」という定説は、独自大会の開催によって崩れたと言っていい。
勝ち負けがすべてではない大会があれば、公立校でも複数の勝てる投手が生まれる。つまり、リーグ戦を作れば高校野球界は大きく変わることができる。
今の流れを失ってはいけない。