球体とリズムBACK NUMBER
奇才ビエルサ戦術は死んでなかった。
2000年代に破産リーズ復活の秘技。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2020/07/23 20:00
テクニカルエリアでピッチの様子を見つめるビエルサ監督。彼にはきっと、別のフットボールの世界が見えているはずだ。
定番の3-3-1-3が“進化版”に。
就任に際し、ビエルサは前季のチャンピオンシップ全24チームのシステムと戦術をつまびらかにし(全556試合をフルタイムで分析したとも!)、選手たちには「軍隊のようなトレーニング」を課した。
「試合はほとんどせず、やっているのは戦術、戦術、戦術、そしてフィットネス(トレーニング)だ」とMFマテウシュ・クリシュは地元紙に明かしている。加えて選手たちに自信を与え、細部にこだわりを持たせ、チームをひとつにまとめる手腕も高く評されている。
リーズのキックオフ時のシステムはビエルサの定番の3-3-1-3ではなく4-1-4-1が基本。ただしポゼッション時には、アンカー──“ヨークシャーのアンドレア・ピルロ”と呼ばれるカルビン・フィリップス──がCBの間に落ち、サイドの4人が高い位置を取り、中央のMFが縦関係になることが多い。つまりビエルサの得意な形になる。
同点ゴールを献上するように指示!?
1年目の昨季、生まれ変わったリーズは好スタートを切り、途中でダービー・カウンティの練習をスパイした疑惑が持ち上がったりしたものの最後まで上位争いを演じていた。そして最終節のひとつ前のアストンビラ戦で、実にビエルサらしい逸話が生まれる。
自動昇格となる2位入りを目指していたリーズのMFクリシュが、ビラの選手が負傷してうずくまっている間に先制点を決めた。直後に両チームの選手同士が揉み合いとなり、相手のひとりが退場となる事態に。
するとビエルサ監督は、リーズの選手たちに相手に同点ゴールを献上するよう指示し、試合は1-1で終了。この結果、シェフィールド・ユナイテッドの2位が確定し、リーズは3位でプレーオフに回り、準決勝でフランク・ランパードが指揮したダービーに敗れて昇格を逃したのだ。このビエルサとリーズの行為は、昨年のFIFAフェアプレー賞として表彰された。
2年目の今シーズンも、ファンを魅了するアグレッシブなスタイルで勝ち星を重ねていった。パンデミックによる中断後は再開初戦だけを落とし、その後は引き分けを挟んで5連勝を飾り、2試合を残して昇格を決めた。