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奇才ビエルサ戦術は死んでなかった。
2000年代に破産リーズ復活の秘技。

posted2020/07/23 20:00

 
奇才ビエルサ戦術は死んでなかった。2000年代に破産リーズ復活の秘技。<Number Web> photograph by Getty Images

テクニカルエリアでピッチの様子を見つめるビエルサ監督。彼にはきっと、別のフットボールの世界が見えているはずだ。

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井川洋一

井川洋一Yoichi Igawa

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 マルセロ・ビエルサに息を吹き込まれたリーズ・ユナイテッドが、16年ぶりにプレミアリーグに戻ってくる。

 そう、狂人の通り名を持つあのアルゼンチン人指揮官と、イングランド1部リーグ優勝3度を誇るあの古豪クラブが、チャンピオンシップ(2部リーグ)からの昇格を決めたのだ。フットボールファンなら、ワクワクしないわけがない。

“エル・ロコ”(スペイン語で狂人の意)と呼ばれる65歳になったばかりの指導者は、もちろん単なる狂気の人ではなく真のフットボールフリークだ(と書いたところで、「バカはバカでも、オレはサッカーバカだ!!」と試合中に叫んだ『キャプテン翼』の大空翼を思い出した)。ビエルサ監督を、蹴球に身を捧げた求道者、と表現しても間違いではないだろう。

 彼は文字通り、すべての時間をこのスポーツのために費やし、練習や試合、ミーティングのないときは、複数の画面を使って映像で分析を続けているらしい(夢のなかでも戦術を語っているかもしれない)。

世渡りは得意ではなさそうだが。

 ビエルサによると、フットボールのフォーメーションは地球上に29通りしかなく、選手は若いうちに全システムの動き方を学んでおくべきだという。

 トレーニングでは、ピッチ上で起こりうるあらゆる事象を想定し、本当の意味でディテールを突き詰める。選手にはスキルと戦術の理解、そして攻守にタフに動き続けられるフィットネスを求める。試合でベンチの前にクーラーボックスを置いてそこに座るのは、より良い視野を確保するためだという。

「私は妥協できない。それは美徳ではなく、欠点だ」と自認するビエルサ監督は、なるほど、風采は上がらないし、世渡りも得意ではなさそうだ。現にいくつかのクラブではフロントと激しく衝突している(ラツィオでは契約した2日後に突如辞任)。

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