球体とリズムBACK NUMBER
奇才ビエルサ戦術は死んでなかった。
2000年代に破産リーズ復活の秘技。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2020/07/23 20:00
テクニカルエリアでピッチの様子を見つめるビエルサ監督。彼にはきっと、別のフットボールの世界が見えているはずだ。
ペップもポチェッティーノも慕う。
けれど、そんな愚直な異能を慕う者は多い。それも、トップクラスの指導者や選手たちだ。
マンチェスター・シティを率いるペップ・グアルディオラは「彼こそ、世界一の監督だ」と言い、「私は彼の息子のようなもの」と話したのは、トッテナム・ホットスパーを昨季のチャンピオンズリーグ決勝に導いたマウリシオ・ポチェッティーノだ。
またアスレティック・ビルバオで薫陶を受けたハビ・マルティネス(現バイエルン・ミュンヘン)は、「ビエルサから多くを学んだ。(選手なら)誰もが一生のうちに一度は、彼の指導を受けるべきだ」と語り、同じくビルバオで共に戦ったフェルナンド・ジョレンテ(現ナポリ)は「最初は頑固すぎてイライラさせられたりもしたが、最終的に彼が天才だと気付かされた」とコメントしている。
もはや生ける伝説とも言えそうな指導者に、リーズが再建を託したのは2018年6月のこと。その1年前にクラブを買収したイタリア人オーナー、アンドレア・ラドリッツァーニがFD(フットボールディレクター)の助言を受けてビエルサの招聘を望み、600万ユーロとも言われるクラブ史上最高額の監督年俸で契約を結んだ。
リーズにふさわしいステージ、すなわちプレミアリーグに舞い戻るために。
2000年代初頭の栄華から一転し破産。
純白のシャツがトレードマークの名門クラブとその大勢のファンは、この16年間、惨めな日々を過ごしてきた。
1969年、1974年、1992年のイングランド王者は、'90年代後半に訪れたフットボールバブルに乗って大型補強を敢行。生え抜きのアラン・スミスやイアン・ハートに加え、リオ・ファーディナンドやマーク・ヴィドゥカ、ハリー・キューウェル、リー・ボウヤーらを揃えたチームは、1999-2000シーズンのプレミアリーグで3位となり、翌2000-01シーズンのチャンピオンズリーグでベスト4に入った。
しかし以降のシーズンのチャンピオンズリーグ出場権を逃したことで、負債の支払いが難しくなり、立て続けに主力を放出してしまう。
そこからは階段を転げ落ちるように凋落の一途をたどり、2004年に2部へ、2007年にはクラブ史上初の3部へ降格。その間クラブは破産申告をし、由緒ある本拠地エランド・ロードと練習場までも手放してしまった。
それから10年余り、陽の目を見ることはなかったが、2年前に到来したビエルサがすべてを変えた(厳密に言えば、その1年前にクラブを買ったラドリッツァーニか)。