マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
横浜隼人・水谷監督の見果てぬ夢。
花巻東に預けた息子・公省と甲子園で。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2020/07/16 07:00
水谷公省は2019年夏に2年生4番として出場しながら、途中交代で花巻東も初戦敗退。誰よりも1年間の成長を甲子園で見たかったのは父かもしれない。
花巻東の精神年齢はいつだって高い。
過不足のない緊張感と真剣味。
水谷選手のプレーだけじゃない。花巻東の練習やゲームに接していて、いつも感じるちょっと違う「高校野球のムード」だ。
常に大人の罵声が飛びかって、選手たちがそれにおびえながら一生懸命ぶりをアピールする。そんな不健全な高校野球の現場とは、一線を画する精神年齢の高さ。
最近はそんな学校も増えて来たのだろうか。花巻東ではないが、以前伺った高校野球の現場では、こんなこともあった。
監督さんもコーチもそこにいるのに、動くのは選手から何か問われた時だけ。ほとんど声も発さない。
それでいて、ほどよくピンと張り詰めた緊張感。
練習中のどの場面でも、選手たちが能動的に動いて、その動きに、脇で誰かに強いられているようなわざとらしさがない。
とても居心地のよい高校野球の空間になっていた。
「あくまでも選手たちが主人公で、われわれ(指導者)は相談相手。だから、練習メニューも選手たちが作るし、試合も選手たちがプロデュースする。選手たちがオーダーを決めて、選手たち個人個人が目標設定して、選手たちでサイン出し合って試合を進めてます。
選手たちの、選手たちによる、選手たちのための高校野球。その線でやってると、だんだんと練習でやれることが、そのまま試合でできるようになってきますよ。実戦が特別なことじゃなくなってくる。自然と、選手たちが大人になってくる。大人たちが勝たせてやろうとか、勝ちたいとか、有名になりたいとか……そういう“煩悩”が高校野球おかしくしてるだけじゃないですかね」
そうサラサラッと言ってのけた監督さんがおられた。
話を聞いてすぐに、ここ、花巻東のグラウンドの情景が浮かんだものだ。
自分で育てるという選択肢は?
「息子なんだから、自分で育てればよかったのにって、確かによく言われますね」
水谷監督がちょっと困ったようになっている。
「自分にはできない、無理です。ウチは寮がありませんから、学校から帰って家でも顔を突き合わせるわけです。学校と家庭と24時間一緒にいて、どうしたって監督と選手っていう立ち位置で、お互い息が詰まりますよね。それに他の選手たちの手前、どうしたってきびしく当たるでしょう……妻に怒られます」
水谷監督一流の絶妙のオチがついた。
「あいつがもし、とんでもなくすごい選手か、逆にヨソにお願いするのが申しわけないぐらいヘタクソだったら手元に置いたかもしれませんけどねぇ……」
ちょっと間があった。
「人さまの息子さんは自分の息子。自分の息子は、人の息子だと思ってますので」