球体とリズムBACK NUMBER
ベルマーレらしさと新機軸の葛藤。
“湘南スタイル”をどう昇華する?
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/07/07 19:00
相手より走り勝つ。体制が変わっても湘南スタイルとはそのイメージが浸透している。そのチームが2020年、どんな顔を見せるのか。
響く「テンポ、テンポ!」の声。
激動の昨シーズン途中に就任した浮嶋敏監督のもと、今シーズンの湘南はショートパスを繋ぐスタイルを取り入れようとしている。
先制された後も、低い位置からボールを回して攻撃しようとするが、マンツーマンでハイプレスをかけてきた仙台に封じられてしまう。時折、左のウイングバックの鈴木冬一が中央に入ってポゼッションに加わるなど、工夫も見られたが、正直な足元へのパスが多く、効果的な崩しは数えるほど。
「風があり、相手も(前からプレスに)きている状況だったので、割り切ってプレーしてもよかった」と湘南の主将を務めた岡本拓也が振り返ったように、臨機応変なプレーが必要に思えた。
観客のいない試合では、自ずと当事者たちの声がスタンドにも届く。苦戦を強いられるなか、ベルマーレの選手が「焦んな。自分たちのサッカーを続けろ!」と叫び、ピッチサイドの指揮官は「テンポ、テンポ!」とポゼッションスタイルの肝のひとつとなるリズミカルなボール回しを求めた。
だがところどころ起こるミスにより、チームの意志と監督の要求はなかなか形になっていかない。前半のチャンスといえば、23分に鈴木のクロスをタリクがヘディングで合わせたものと、43分にボックス内から鈴木が放ったシュートくらい。齊藤未月の完璧なスルーパスを岡本が折り返し、鈴木が放った左足のフルスイングは、仙台の18歳のGK小畑裕馬(公式戦デビュー)に弾き出された。
茨田、指宿の投入で打開を図るも。
エンドが変わった後半、湘南は追い風を味方につけ、少しずつ主導権を握り返していく。55分には新加入の技巧派アンカー茨田陽生を投入し、テンポを速めようとし、その18分後には長身FW指宿洋史を入れて、そこからのポストプレーで打開を図った。
しかしどちらも結果にはつながらず、湘南は2月の浦和レッズとの開幕戦に続いて連敗。2試合とも1点差ではあったが、課題は似たようなものだった気がする。
それは新たな試みとこれまでの湘南スタイル──曹貴裁前監督のもとで長年培った勢いのあるサッカー──の両立の難しさ、あるいは状況に合ったプレーの必要性と言えるか。