球体とリズムBACK NUMBER
ベルマーレらしさと新機軸の葛藤。
“湘南スタイル”をどう昇華する?
posted2020/07/07 19:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
J.LEAGUE
無観客、強風と雨、およそ4カ月ぶりの公式戦と、弁明の余地はあるかもしれない。だとしても、あれほどミスが頻発すると、今シーズンの湘南ベルマーレが目指すスタイルを体現するのは難しいだろう。
異様な空気に包まれたShonan BMWスタジアム平塚でJ1再開初戦を観ながら、そんなことを思った。同時に、“湘南スタイル”という言葉の意味の重さについても。
九州南部をとてつもない豪雨が襲った日の夜、神奈川県西部でも空は不機嫌で、記者席の机の上にも驟雨のしぶきが頻繁に落ちてきた。
周囲を見渡すと、当然スタンドにファンの姿はなく、ホームのゴール裏にはスピーカーが設置されている。そこから流れる人々のざわめきと、選手がボールを蹴る音、コーチたちの掛け声が聞こえ、試合前のアナウンスや音楽はやけに大きく響いた。
雨が止んだ頃に蝉の声がする前代未聞のJ1第2節(本来なら初春に開催されていた)。不吉な色の空とひと気の少ない7月の会場が、いつもと違うフットボールの風景を強調していた。
強烈な逆風が生んだ不運な失点。
湘南とベガルタ仙台の選手たちが距離を保って整列し、キックオフの笛が鳴ると、スタンドのスピーカーがホームサポーターの歌を鳴らし始める。クラブは少しでも、選手たちにファンの存在を感じさせようとしているのだろう。だが前半の湘南は、その音さえも押し戻しそうな強烈な逆風に晒され、早々に不運な失点を喫してしまう。
3分、左サイドをジャーメイン良に突破され、鈴木冬一のスライディングも届かずクロスを上げられると、ボールは向かい風に乗ってそのままファーサイドのポストに当たってネットを揺らした。試合後に本人が「クロスでした」と認めるゴールによって、湘南は出鼻をくじかれてしまった。