プレミアリーグの時間BACK NUMBER
無観客プレミア取材詳細レポート。
選手の声は響けど会場に熱狂なし。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2020/06/29 07:00
試合後のインタビューもそっけない形。ウィズコロナの時代のフットボールはやはり、どこか味気ない部分もある。
試合中に強まる“無観衆感”。
そして試合が始まると、“無観衆感”はさらに強まった。
選手が発する声はテレビよりもはっきりと聞き取れる。トッテナムのゴールを守るユーゴ・ロリスはキックオフ早々から、「カモン!」「アウェイ(クリア)!」「ヘッド・イイット!」などと叫びっぱなしだった。キャプテンということもあるだろうが、相手GKルーカス・ファビアンスキとは比べ物にならない口数の多さだった。
前線の左サイドで先発したソン・フンミンは、言われなくても攻守に精力的なタイプだが、攻守が入れ替わった瞬間、後方から「ソニィィーッ!」とニックネームで守備への加勢を求められていた。
ベンチ前の両監督も興味深かった。トッテナムのジョゼ・モウリーニョは不利な判定が下るとポルトガル語で何事か叫んで不満を示し、ウェストハムのデイビッド・モイーズはオーソドックスに「もっと詰めろ!」、「集中!」などと指示していた。
ウェストハムでは次期キャプテン候補のデクラン・ライスの声に感心した。
トマシュ・ソウチェクのオウンゴールでリードを許した後、ベテランのマーク・ノーブルがベンチに退いて間もない75分過ぎ、21歳のボランチは、「ラスト20分、最後まで全力でいくぞ!」と周囲に発破をかけていた。
VARの結果待ちは完全に空白の時間。
しかし、選手たちの掛け声が響く度にスタジアムの静けさに意識がいった。VARの結果を待つ間などは、それこそ空白の時間が流れる。観衆の反応がないからだ。
ハーフタイム目前にソンのゴールがオフサイドで取り消された場面や、64分にダビンソン・サンチェスのハンドが見落とされてトッテナムが先制点を手にした場面では、両軍のファンが、それぞれの立場でVARを讃えたり、貶したりするチャントを歌っていたことだろう。
ケインが、善戦していたウェストハムの望みを断った追加点のシーンでも、スタンドのノイズといえば後列端に座っていた素顔はトッテナム・ファン記者による、マスク越しの「イェース!」の一声だけだった。