プロ野球PRESSBACK NUMBER
筒香嘉智は亀で、森友哉はうさぎ。
恩師が語る2人の違いと共通点。
text by
上原伸一Shinichi Uehara
photograph byRyunosuke Seno
posted2020/06/28 11:50
彼らの野球の原点とも言える堺ビッグボーイズでの恩師・瀬野竜之介を挟んで森友哉(左)と筒香嘉智。
堺ビッグボーイズで全国大会を連覇したが……。
筒香と森。2人は堺ビッグボーイズにとって偉大な卒業生だ。とはいえ、中学時代に特別扱いされたかというとそうではない。
瀬野代表は「誰に対してもその子に合った指導をしてきたつもりです」と言う。たまたま野球の世界ではこの2人が有名だが、他分野で活躍しているOBもたくさんいる。
「野球チームなんで、筒香と森に続く選手が出てほしい気持ちはありますが、一方で野球を通して得たものも武器に、それぞれの世界で成功してくれればとも思います」
瀬野代表は高校時代、浪速高でプレーした。同学年にはPL学園高の宮本慎也(元ヤクルト)らが、1学年下には上宮高の元木大介(巨人ヘッドコーチ)らがおり、当時も大阪のレベルは高かったものの、3年春は2番・左翼で府8強に食い込んでいる。東海大ではケガでリーグ戦出場はなかったが、4年だった1991年より父親がチーム代表を務めていた堺ビッグボーイズのコーチに。翌年から9年間、監督としてチームを指揮し、'99年、2000年と2年連続で春の全国大会を制した。
2002年から代表になった瀬野氏がチームを改革したのは2009年、森が中学2年の時だった。お腹一杯まで野球をやらせていたことが、その後の成長を妨げていると判断し、大幅に練習時間を短縮。その分、自分たちに考えさせる自主練習の時間を設け、サッカーなど他競技も練習メニューに加えた。
「勝利至上主義」から、育成に重きを置いた「勝利主義」に舵を切ったのだ。
「指導の原点は、いかに野球が楽しいと……」
これに反発したコーチたちは次々に辞めていったが、瀬野代表は新しいやり方を貫いた。
すると、選手が伸び伸びとプレーするようになり、グラウンドから帰る時に「また明日も野球がやりたい!」と口にするようになったという。やがてその姿が評判を呼び、少子化で野球の競技人口も減っている中、入団希望者が増えていき、今では小・中学合わせて180名の部員がいる大所帯となっている。ちなみに小学部のスーパーバイザーは筒香が務めている。
自粛期間も明け、アマチュア野球も少しずつ活動を再開している。長く野球がやれなかった分、誰もがうずうずしながら、この時を待っていたに違いない。
「指導の原点は、いかに野球が楽しいと思える環境を作ってあげられるかでは。楽しいと思えるなら、指導者があれこれ言わなくても、どうすれば上手くなるか、自分で工夫すると思います」
グラウンドに戻ってきた野球少年たちはいま、嬉々としてボールを追いかけている。