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バイエルンが頼った敏腕スカウト。
川田尚弘が日本で中高生を探す理由。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO
posted2020/06/17 11:30
バイエルンがどこにも負けないクラブを目指す以上、どこにもいない選手を自分たちで教育する必要があるのだ。
すでにザークツィーやデイビスが大成功。
バイエルンがこの方針を選んだのには、もう1つ理由がある。2017年夏に育成施設『カンプス』(Campus)が完成したのだ。
7000万ユーロ(約84億円)をかけた最先端の施設で、ラーム、シュバインシュタイガー、トーマス・ミュラーといったタレントを再び自前で生み出すことを目指している。
すでに成果が出ている。2018年1月にオランダのフェイエノールトから獲得したFWジョシュア・ザークツィー(当時16歳)が、バイエルンIIで経験を積み、2019年12月にCLのトッテナム戦にトップデビュー。
1週間後のフライブルク戦では90分から出場して決勝ゴール。さらに3日後、ヴォルフスブルク戦でも途中出場から決勝ゴールを決めて、一躍時の人になった。
もちろんすべて成功しているわけではなく、ザークツィーと同じタイミングで加入したチョン・ウヨン(当時18歳。現U-22韓国代表)は、トップに定着できず、2019年6月にフライブルクへ移籍した。ただ、今年1月からバイエルンIIにレンタルで戻っており、“買い戻し”の可能性は残されている。
最大の成功例は、カナダ代表のアルフォンソ・デイビスだ。
2019年1月(当時18歳)にバイエルンに加入すると、まずはトップで途中出場しながら、バイエルンIIの試合にも出場。今季も一軍と二軍の掛け持ち生活が続くと思われていた。
転機となったのは、センターバックの負傷者続出。アラバがセンターバックにコンバートされ、デイビスは左サイドバックに起用された(本職はウイング)。すると恐るべきスプリント力を発揮し、瞬く間に欠かせない存在になった。
実はマンチェスター・ユナイテッドなどのビッグクラブもデイビスに目をつけていた。しかし、彼らは未知数のカナダ人に高額の移籍金を投じるのを嫌った。それに対して、バイエルンは「育てて仕上げる」自信があったのだろう。MLS史上最多の2200万ドルを支払い、すでに投資に見合ったリターンを手にしている。
JFAともパートナーシップを締結。
あまり知られていないが、2018年5月、バイエルンは日本サッカー協会(JFA)とパートナーシップ協定を結んだ。指導者・スタッフの交流、アンダー年代の親善試合、『カンプス』での合宿などを通して協力し合うのが目的だ。
「僕にとって田嶋さんは、筑波大学とケルン体育大学の先輩。どうパートナーシップを生かしていくか、田嶋幸三会長をはじめ、日本サッカー協会のスタッフの方々とも話し合いを重ねています。バイエルンは韓国サッカー協会とも提携しており、すでにアンダー年代の韓国代表が『カンプス』でキャンプを行い、選手や指導者が積極的に交流しています。
JFAとの提携からもわかるように、バイエルンはJリーグのクラブなどから無理やり若手選手を引き抜こうとは全く考えていません。日本サッカーの発展に様々なかたちで貢献したいという思いが第一です。その思いのもと、我々は日本を含めたアジアでプロジェクトを展開していき、将来的にはバイエルンとしてポテンシャルのある優れた若手を発掘し獲得できればと考えています」